2016年03月18日 13:00 〜 14:00 10階ホール
トビー・ランザー 国連サヘル地域担当人道調整官

会見メモ

貧困、政情不安に苦しむサハラ砂漠南側の「サヘル地域」における国連の人道支援を指揮するトビー・ランザー氏が会見し、記者の質問に答えた。
司会 土生修一 日本記者クラブ事務局長
通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

一流の伝達力で、テロ、貧困、干ばつのサヘルに挑む

宮田 一雄 (企画委員 産経新聞社特別記者)

出席した記者一人一人に「はじめまして」と日本語で声をかけ、握手をしながら会見場に入る。選挙の立候補者のような行動が違和感なくできる。人道援助には信頼感の獲得が不可欠ということか。

 

アフリカのサハラ砂漠南縁に広がるサヘル地域は、世界で最も深刻な貧困地域である。ブルキナ・ファソ、カメルーン、チャド、ガンビア、マリ、モーリタニア、ニジェール、ナイジェリア、セネガルといった国が含まれる。日本にとっては遠い国々の印象が強い。その遠い国との心理的な距離を少しでも近づける。そのためにも握手は有効だ。

 

国連サヘル地域担当人道調整官に就任したのは昨年7月だが、それ以前にも20年以上、国連の開発・人道支援、平和維持活動に従事してきた。過激派集団ボコ・ハラムなどのテロや暴力支配、気候変動による干ばつ被害、そして政治的な腐敗と貧困。その3要因がサヘル地域に大きな苦しみを与えていると指摘する。

 

伊勢志摩サミットに先立ち日本を訪れた。「日本の人たちが遠いサヘル地域で苦しむ人たちに支援の手をさしのべていることに感謝したい」。他の国も見習ってほしい。サミットをそのための大きな情報発信の機会にしてほしい。そんな期待感もにじむ。

 

ひょっとして英語がうまくなったのではないか。

 

会見では一瞬、そんな錯覚を持った。平易な語句を選び、ゆっくり話す。通訳の方に訳してもらう前に内容がだいたい把握できるではないか。支援の現場でも、言葉によるコミュニケーションは握手以上に重要だ。そのことを知り尽くしているのだろう。

 

国際社会は今年から持続可能な開発目標(SDGs)のもとで世界の貧困解消に取り組む。総花的な目標の中で、地域の実情に合わせた対策に焦点を絞ることが重要になる。サヘル地域の場合は「農業の強化改善、質の高い教育の保障、母親が健康でいられるための保健医療、コミュニティ同士やコミュニティと市場をつなぐインフラ(道路)整備」だという。

 

会見の後半、英語のスピードが上がる。言いたいことが山ほどあり、どうしても早口になる。絶望的な状況は依然、続く。だが、「事態が改善すると信じなければ、活動を続けてはいない」とも語る。明るさを失わないことも調整官の重要な資質だろう。


ゲスト / Guest

  • トビー・ランザー / Toby Lanzer

    国連事務次長補兼国連サヘル地域担当人道調整官 / UN Assistant Secretary-General & Regional Humanitarian Coordinator for Sahel

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