2016年03月22日 17:30 〜 18:30 10階ホール
「3.11から5年」 ⑭田中俊一 原子力規制委員会委員長

会見メモ

原子力規制委員会の田中俊一委員長が会見し、記者の質問に答えた。
司会 服部尚 日本記者クラブ企画委員(朝日新聞)

原子力規制委員会HP会見速記録
同HP会見資料1 


会見リポート

新たな安全神話は避けよ

菅野 篤司 (福島民友新聞社東京支社)

東京電力福島第1原発事故は、東日本大震災以前の原子力政策が「安全神話」と表現すべき不備と慢心の上に成り立っていたことを全国民に明示した。田中氏の会見は事故後5年の原子力規制の到達点と新たな課題を浮き彫りにするものとなった。

 

「私たちの努力がどのように評価されるか、率直に質問を兼ねて受けるのが今日の目的」と切り出した会見は、質疑応答が中心の展開。田中氏の見解を要約すると、審査会合を公開、インターネット中継して透明性を確保する取り組みは定着し、政治からの独立性も一定程度は確保できた。地震や津波などによる過酷事故を未然に防ぎ、事故時も複数の手段で対応することを重視した新規制基準は、世界的も厳しい水準に近づいた。だが、電力会社の意識は「規制に通ったから安全だ」というレベルにとどまっており、まだ不十分だ―というのが田中氏から見た原子力規制の到達点と言えそうだ。

 

一方、原発事故時の住民避難については歯切れが悪いように感じた。国際原子力機関(IAEA)は、事故の未然防止から住民避難までを含めた重層的な対策を原子力の「深層防護」とする。「住民避難までを規制基準に含めるべきでは」の問いに対し「そういう国もあるし、そうでない国もある。わが国は基本的な指針や考え方は規制委員会が作る。それを踏まえて地方自治体が避難計画を作り、国の原子力防災会議がオーソライズする」と、現行法制上の仕組みを説明するにとどめた。しかし、その後に「それだけで住民が安心できるかというと簡単ではない」とも述べた。

 

過去の原子力行政の最大の欠陥は、新たな対策の導入や制度の隙間を埋める作業を怠る「無作為」だった。規制委員会と地方自治体、国がそれぞれの立場で「避難計画は大丈夫だ」と思い込むことが、新たな「安全神話」につながらないことを願う会見となった。


ゲスト / Guest

  • 田中俊一 / Shunichi Tanaka

    日本 / Japan

    原子力規制委員会委員長 / Chairman, the Nuclear Regulation Authority

研究テーマ:3.11から5年

研究会回数:14

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