2016年03月08日 15:00 〜 16:30 10階ホール
ゴンサロ・デ・ベニト駐日スペイン大使

会見メモ

スペインのゴンサロ・デ・ベニト駐日大使が会見し、記者の質問に答えた。
司会 中井良則 日本記者クラブ専務理事

通訳 丸山啓子


会見リポート

ベテラン外交官が説明するスペイン事情

中井 良則 (日本記者クラブ専務理事)

スペインは昨年12月の総選挙後、新しい政権を樹立する連立交渉が難航している。スペインの新聞は「この状態では6月に再選挙」の見通しを書き、大使としては話しにくい時期だったが、日本記者クラブの会見に応じた。スペイン・日本の関係進展を語り、スペインの政治、難民などの質問にベテラン外交官らしく丁寧に説明した。

 

日本と並ぶ一人あたりGDP

 

冒頭のプレゼンテーションのタイトルは「日本・スペイン関係 現状と将来の展望」。スペイン国王フェリペ2世から徳川家康に贈られた「西洋時計」や、支倉常長の慶長遣欧使節団の侍がスペインに残した「ハポン」姓の子孫400家族などのエピソードを紹介した。

 

スペイン日本比較では、一人当たりGDP(購買力平価)がスペイン3万4438㌦、日本3万7299㌦とほぼ横並びだったり、昨年の経済成長率はスペインが3.0%で、日本の0.7%を上回ったといった少し意外な数字もあげた。スペインの面積が日本の1.3倍も広く、経済力でも欧州第4位の「大国」であることは、日本ではあまり知られていない。

 

大使は「日本はスペインにとって深く、多様で、かつ密接な関係があり親近感を持つ国です。アジアの主要なパートナーといえる」と日本の重要性を指摘した。

 

市民の不満と政治の混乱 問われる民主主義

 

後半の質疑応答ではスペインの現状がとりあげられた。

 

スペインは中道右派、国民党(PP)と中道左派、社会労働党(PSOE)の二大政党が交互に政権をとってきたが、昨年12月の総選挙で一挙に多党化時代に入った。国会で首相指名に必要な多数を握る連立政権交渉は暗礁に乗り上げている。

 

その背景について「経済危機で財政赤字が拡大し、社会の高齢化や中国、インドの追い上げもあり、構造改革は欧州共通の課題だった。公共支出を抑え、社会保障を減らしたため、社会の不満の原因となった。その不満が選挙で多党化につながった」と語り、構造改革が避けられなかったことを強調した。

 

とはいえ、選挙結果に基づいた連立政権作りも欧州共通の課題。スペインはほかの国のような政党間の妥協や連立合意に至らず、再選挙に進むのだろうか。再選挙をしても、国会の議席が元の二大政党制に戻る見込みは薄い。反緊縮政策の街頭デモや広場占拠の市民運動は新しい左派政党を生み、初の総選挙で第三党に躍り出た。

 

カタロニアの独立運動については「分離独立を求める住民投票は憲法違反であり、生き場のない道を進んでいる。独立後はEUに加盟する、という構想もEUが認めるはずがなく不可能だ。もしそんなカタロニアをEUが受け入れると、他のEU加盟国でも同じことが起こり大問題となるからだ。どう突き進んでも未来はない」と中央政府の立場を説明し、突き放した。

 

ただ、いくら政府がスペインの一体性を掲げても、いったん独立を夢みたカタロニアの人々を押さえつけることがいつまで、できるだろうか。

 

市民の不満や疑問を反映させた政治を作り出す。民主主義のあり方が問われるのは日本もスペインも同じだ。

 

ワインとトルティージャで懇談

 

会見後は、大使館にスペインワインを提供してもらい、大使館で調理したトルティージャ・デ・パタータ(じゃがいもが入った分厚いオムレツ。日本ではスパニッシュ・オムレツと呼ぶ)をつまむミニレセプションを開いた。大使も残って懇談の時間が続いた。

 

出席者の何人かから「スペインはあまり知らなかったけど、面白そうな国だね」という感想を聞けたのも、収穫だった。


ゲスト / Guest

  • ゴンサロ・デ・ベニト / Gonzalo de Benito

    スペイン / Spain

    駐日大使 / Ambassador to Japan

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