2016年02月05日 13:30 〜 15:00 10階ホール
「2016年経済見通し」⑥武田洋子 三菱総合研究所政策・経済研究センター 副センター長

会見メモ

三菱総合研究所政策・経済研究センターの武田洋子副センター長が「日本と世界経済の行方」と題して話し、記者の質問に答えた。
司会 実哲也 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

日本経済の発展にはイノベーションが不可欠

山岸 寿之 (日本経済新聞社編集局商品部シニア・エディター)

2016年の経済見通しを聞く研究会の6回目(最終回)。武田氏は景気見通しよりも内外の経済情勢の分析を踏まえ日本経済の成長、発展のためには何が重要なのかに重点を置き語った。

 

世界経済の概況は、2014年からは先進国中心に緩やかな回復が続いているが、米国の金融引き締め、日欧の緩和という金融政策の分岐が起きている。そのなかで、新興国は中間層こそ拡大したが、成長鈍化、債務への懸念、資金流出に直面している。中東の産油国は、原油相場が1バレル87ドルよりも下がれば財政不安が生じる状況にあると指摘した。

 

原油安は消費国経済にはプラスとなるはずなのだが、大幅に下がった現状では投資家のリスク回避やオイルマネーの退潮、資源国への投資減少などのマイナスの作用も目立つようになり、日本の国内総生産(GDP)を0.8%押し下げる可能性も出ているという。新常態に向かう中国は、製造業が設備過剰で成長が鈍化しているが、サービスなど第3次産業の成長が続いている。16年の成長率は6%台半ばとみるが、中国経済が成長を続けるには3つのハードルがある。過剰債務を調整できるか、イノベーション主導の成長モデルが築けるか、都市戸籍・農村戸籍や地方間格差という2つの格差を克服できるかだ、と述べた。

 

米経済はサービス産業主導で回復が続くとみるが、ドル高の影響、原油安によるシェールオイル産業への打撃、株安による消費抑制という3つの懸念材料がある。米国内の所得格差拡大と労働市場の流動性低下にも中長期的に米経済の活力をそぐ要因として注意が必要だと強調した。世界の銀行与信残高をみても、14年12月末を境にアジアや中南米の新興国の与信残高が減少に転じている。世界経済は中国株バブルがはじけた後の世界の「デットサイクル」第3波を回避できるかどうかが鍵となると述べた。

 

アベノミクス始動から3年がたった日本経済については、日銀の金融緩和や円安傾向でGDPは名目、実質ともに上向き、金融市場や企業収益、雇用環境が着実に改善している、と語った。しかし、企業の経常利益は大幅に上向いたが、労働分配率の低下や、それに伴う平均消費性向の低下が目立ち、設備投資、賃金引き上げ、脱デフレマインドの動きが鈍いという問題点を指摘した。今後の日本経済の成長は金融政策頼みでは進まず、成長の源泉と期待される民間企業の動向が鍵となると強調した。企業の負債が減り、設備過剰感も解消したのに設備投資に回らず、多額の現預金を抱えている現状に合理的な理由はなく、賃金を上げる時が来ていると指摘した。

 

今後の日本経済の発展に向けて、1990年代前半に米国の80%強に迫った1人当たりGDPが再び引き離されて15年は米国の70%弱に低下したと指摘し、日本経済再生のための3つの鍵として「人的資本」「イノベーション」「持続可能性」の3点をあげた。特にイノベーションで日本経済の停滞を打破する必要があると強調した。武田氏のいうイノベーションとは単なる発明、発見を指すのではなく、企業や人の課題解決力を高めることだ。日本で知識解決型のイノベーションを高め、経済社会制度のイノベーションも進めることで、世界経済の成長鈍化や高齢化社会を乗り切ることができると説いた。


ゲスト / Guest

  • 武田洋子 / Yoko Takeda

    日本 / Japan

    三菱総合研究所政策・経済研究センター 副センター長 / Mitsubishi Research Institute (MRI)

研究テーマ:2016年経済見通し

研究会回数:6

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