2015年12月02日 16:00 〜 17:00 9階会見場
カイス・ダラジ 新駐日チュニジア大使 会見

会見メモ

チュニジアのダラジ大使が2010年末のジャスミン革命から民政移管までの道のり、内政の現状と課題について話し、記者の質問に答えた。
司会 脇祐三 日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)
通訳 西村好美(サイマル・インターナショナル)


会見リポート

「市民」による変革の自負と課題

脇 祐三 (日本経済新聞コラムニスト)

2015年のノーベル平和賞は、「アラブの春」の後のチュニジア民主化の苦闘に光を当てた。受賞した「国民対話カルテット」は、チュニジア最大の労働組合である労働総同盟、経営者の団体である産業貿易手工業連合、基本的人権の確立をめざす人権擁護連盟、全国弁護士会という4つの組織を指す。この4者が世俗主義勢力とイスラム主義勢力の歩み寄りを促し、新憲法の制定や自由で公平な選挙の実施にこぎつけた功績は大きい。

 

独裁体制が崩壊し、社会がイデオロギーによって分断され、対立が暴力を伴うようになって、国民は民主化プロセスに幻滅し始めていた。その状況の中から「コンセンサスによって問題を解決すべきだ」というリバランスの動きが起きた。部族や宗教が強い影響力を持つアラブの社会にあって、チュニジアでは、開かれた社会を追求する伝統、教育水準の高い中間層の厚みなどが、「保守的なイデオロギーに対する砦(とりで)になった」と大使は説く。

 

「アラブの春」の発端は、特定のリーダーが不在でイデオロギー色もないチュニジアの若者たちが、ソーシャルメディアを駆使して社会を動かし、独裁を倒したことだった。これを社会変革の新たなプラットフォームと位置づける大使は、移行期の政治対立を話し合いで克服する動きを、「市民社会の介入」と呼ぶ。「アラブ諸国で唯一の進歩的でリベラルな憲法」も昨年、制定された。「市民社会」「市民国家」というキーワードを大使は繰り返し、市民が変革と民主化の担い手になっているという自負を示す。

 

その一方で、課題も山積している。まず、テロの脅威との戦いだ。隣国リビアが国家として破綻し、武器の拡散と過激派の訓練の場になった影響は大きい。国内で起きるテロのほか、3000人ものチュニジア人がシリアやイラクに渡って過激派の戦闘員になっている問題もある。この点について大使は、「教条的な勢力は国内で支持を得られず、他に活動の場を求めて出て行かざるを得なくなった」とも説明した。

 

経済の活性化も急務だ。投資の落ち込み、財政収支の悪化、失業率の上昇という苦境から、どう抜け出すか。「すべての地域、すべての社会階層を包含する経済発展」を目指すが、経済構造改革は痛みも伴う。日本とのパートナーシップを強調する大使の発言には、経済面での日本の協力拡大への期待も込められていた。


ゲスト / Guest

  • カイス・ダラジ / Kais Darragi

    チュニジア / Tunisia

    駐日大使 / Ambassador to Japan

ページのTOPへ