2015年12月02日 14:00 〜 15:30 10階ホール
「沖縄から考える」⑨高橋哲哉 東京大学大学院教授

会見メモ

『沖縄の米軍基地 「県外移設」を考える』(2015年6月 集英社新書)の著者の高橋哲哉教授が基地問題について話し、記者の質問に答えた。
司会 川上高志 日本記者クラブ企画委員(共同通信)


会見リポート

議論喚起、メディアの「責任」

川上 高志 (企画委員 共同通信論説副委員長)

福岡高裁那覇支部での辺野古代執行訴訟の第1回口頭弁論と同時刻に始まった記者会見は、沖縄と東京とを橋渡しする内容となった。

 

翁長雄志県知事は意見陳述で「沖縄にのみ負担を強いる日米安保体制は正常か。国民全てに問い掛けたい」と訴えた。哲学者である高橋氏はこれに対する論理的な回答を示した。

 

共同通信が今年行った戦後70年の世論調査などでの80%を超える日米同盟支持の声、米軍に強制接収された沖縄の土地に「本土」での反対運動に遭った米海兵隊が移駐し、基地集中が進んだ歴史的経緯―などを挙げ、世論の大勢が安保条約を支持するのならば「本土」に基地を引き受ける「責任」があると結論付けた。

 

高橋氏が6月に出版した著書で提示した米軍普天間飛行場の「県外移設」論は、沖縄では大きな反響を呼び、深掘りした議論が行われている。だが本来の問い掛け先である「本土」ではほとんど議論になっていない。

 

世論調査を行えば、辺野古移設を進める政府方針の見直しを求める意見が強まっているものの「基地引き受け」という議論にはならない。どこに移設するのか。候補地名が具体的に上がれば反対運動が必ず起きると想定されるからだろう。しかし議論がそこに至らなければ、現状を黙認することになる。

 

歴史認識や靖国神社について発言を続けてきた高橋氏は、戦後責任、植民地支配責任の問題として沖縄基地問題をとらえ、「原理的」に考察したと述べた上で「本土」での議論を喚起するようメディアの取り組みを求めた。

 

那覇支部での訴訟は、代執行の法的手続き論にとどまるのか。日米安保という政治テーマに踏み込む可能性は低いと想定されている。

 

だが訴訟がどうであれ、翁長知事の提起に対する議論は必要だ。米海兵隊の「抑止力」をかつて現職防衛相が否定し、米政府高官OBからも疑問視する声が出る中で、沖縄を孤立させず、「本土」の側で基地負担の議論を深めていく。メディアの「責任」を突きつけられる会見だった。


ゲスト / Guest

  • 高橋哲哉 / Tetsuya Takahashi

    日本 / Japan

    東京大学大学院教授 / Professor, Graduate School, Tokyo University

研究テーマ:沖縄から考える

研究会回数:9

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