2015年09月14日 18:00 〜 20:00 10階ホール
試写会「顔のないヒトラーたち」

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会見リポート

「過去の克服」生みの苦しみ描く傑作

高野 弦 (朝日新聞国際報道部部長代理)

過去と向き合ううえで、見習うべき国と見られがちなドイツ。しかし、現在に至るまでの道のりは、苦難に満ちていた。映画「顔のないヒトラーたち」は、生みの苦しみの端緒となった出来事とその時代を扱っている。

 

今やその名が世界に知れ渡ったアウシュビッツ収容所。しかし、1950年代の後半まで、そこで何が行われていたのかを知るドイツ人が実に少なかったことが、明らかにされる。にわかには信じられないが、65年生まれの監督ジュリオ・リッチャレッリ氏はインタビューの中で「自分でリサーチしていくうちに、この結果は当然だと思った」と語っている。

 

この時代、西ドイツは経済成長を謳歌する一方、ユダヤ人の墓地が荒らされるなど再びナチスの思想が影を落とし始めていた。元ナチ党員が、政府や司法、教職の場に復職してもいた。

 

だが、このとき、社会の内部で理性が覚醒する。映画に登場する検事や新聞記者たちばかりではない。教育の現場では「現代史を重視しなければ」との声が上がり、ナチ犯罪を追及するための司法改革も動き出す。

 

当時の国際環境は、告発者たちにとって逆風だったに違いない。緊張関係にあった東ドイツは、西ドイツにナチスのレッテルを貼ることで自国を正当化していた。その後ろにはソ連が控える。過去と向き合う姿勢は、「愛国者」たちの目には敵対行為にすら映ったことだろう。

 

映画の中で、検事の主人公は上司や同僚に疎まれる。家にハーケンクロイツの印のついた石も投げ込まれる。しかし、ひるまない。「事実をもみ消すほうが民主主義に反する」。今日のドイツの姿勢は、一人一人の勇気の賜物でもあるのだ。


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