2015年04月20日 15:30 〜 17:00 9階会見場
研究会「マイナンバー、その可能性と危険性」①自己情報は誰のものか

会見メモ

日弁連の情報問題対策委員会委員長を務める坂本団(まどか)弁護士(大川・村松・坂本法律事務所)が、マイナンバー制度の問題点、疑問について話し、記者の質問に答えた。
司会 竹田忠 日本記者クラブ企画委員(NHK)
会見用資料


会見リポート

マイナンバー その可能性と危険性

プライバシーの重大な危機

 

国民全員に、一生変わらない12桁の番号を付けるマイナンバー制度。

 

来年1月の運用開始を前に、今年10月中旬以降、全国の市町村が、住民に簡易書留を送って番号の通知を始める。あと半年と迫りながら、国民への周知は不十分で、内閣府が1月に行った調査では、7割の人が制度を知らないという。にもかかわらず、政府は番号の適用範囲を、当初の社会保障と税から、さらに預貯金の口座などにも拡大する改正法案を今国会に提出、審議が開始された。

 

マイナンバー制度は、実は異なる出自を持つ2つの制度が合わさってできていて、これが理解を難しくしている。1つは、各役所が別々に持つ国民の情報を、共通の個人番号を使って管理(名寄せ)し、確実に個人を特定しようという番号制度。これは税の徴収漏れをなくそうという納税者番号の流れからきている(財務省や厚生労働省が中心)。

 

もう1つは、かつて国民ID制度と呼ばれたもので、国民全員がIDを持ち、電子政府にアクセスして、さまざまな行政手続きが便利に行えるようにしようというもの。マイナンバー制度ではマイナポータルと呼ばれる(経済産業省や総務省など)。

 

まず第1回の坂本さんは、かつて大きな議論となった住民基本台帳ネットワークよりも、今回はプライバシーにとってもっと危険と主張。そもそも住基ネット以前は、国が国民の個人情報を役所の壁を越えて把握することは容易ではなかったが、住民票コードによって住所、氏名、生年月日など基本的な6つの情報が把握しやすくなった。それが今回は、所得や年金、雇用保険の給付状況など重要な情報が加わり、さらに、マイナポータルには民間の事業者も入ろうとしていて、プライバシーにとって重大な危機と警鐘を鳴らした。

 

2回目の榎並さんは、重要なのは番号というインフラの導入をきっかけに、行政の仕組みや制度を作り変えることだと主張。具体的には当初、民主党政権の下で、番号制度のメリットとして挙げられていた「総合合算制度」という仕組みが、自民党政権では説明文書から消えていることを指摘。この制度は、世帯全体の所得を把握したうえで、その額に応じて家族が負担する医療や介護など社会保障の負担の上限を設定。それを越えた分は免除の対象にしようというもので、低所得者の世帯に対応したキメ細かな社会保障が可能となる。しかし、税と社会保障では世帯の概念がずれていて、すぐに制度が調整できない。このため検討が中断しているという。こうした役所のそれぞれの都合でできている制度を、国民を主役にした目線でどう作り変えるかが問われていると力説。

 

この点については、第3回の森信さんも、番号制の導入によって国民や企業に大きな負担を強いる以上、行政の側も汗を流すべきだが、霞が関の腰はなかなか重いと指摘。

 

では、どうすればいいのか? 可能性はマイナポータルにあるという。たとえば、北欧やフランスでは「記入済み申告制度」という納税手続きがあるという。公的機関が持つ国民の年金や医療などのさまざまな支払い証明のデータを年1回、各個人に戻して、個人はそれをまとめて税務当局に申告する仕組み。番号が導入されれば、日本でもこの便利な仕組みが可能となるはずだが、今のところ役所の動きは鈍い。そこで、生命保険会社や銀行など、民間企業の持つデータをマイナポータルにメールしてもらえるようにすれば、同じことが可能になると説明。マイナンバー制度の可能性を強調した。

 

企画委員 NHK解説委員
竹田 忠

 

*この会見リポートは、下記同シリーズとの統合版です。
榎並利博 富士通総研経済研究所主席研究員(2015年4月24日)
森信茂樹 中央大学法科大学院教授(2015年4月30日)


ゲスト / Guest

  • 坂本団 / Madoka Sakamoto

    日本 / Japan

    弁護士、日弁連情報問題対策委員会委員長 / Lawyer

研究テーマ:マイナンバー、その可能性と危険性

研究会回数:1

ページのTOPへ