2014年11月06日 18:00 〜 19:20 10階ホール
試写会 「パーソナルソング」

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会見リポート

心は生きている 薬より1曲の音楽を

猪熊 律子 (読売新聞東京本社社会保障部長)

「認知症の映画の試写があるんだけれど、行かない?」。知人2人に声をかけたが、答えはノー。介護の大変さや認知症のつらさを見せられるのはちょっとね、という雰囲気が伝わってきて、仕事で見る映画でなければそうかもね、と思いつつ、1人で試写会に向かった。

 

映画が始まり、たちまち引き込まれた。78分の上映時間が終わった後、ドキュメンタリーが持つ力の偉大さをあらためて思い知らされた。

 

中心人物は、ソーシャルワーカーの米国人男性、ダン・コーエン氏。かつてIT業界で働いていた同氏は、重い認知症の人の心を開かせるにはどうしたらよいかと悩んだ時、iPodを使い、その人にとって思い入れのある歌=パーソナルソングを聞かせることを思い付く。

 

試してみると、娘の名前もわからなくなった重度の男性が、若かりし時に愛した音楽が流れた途端、目を大きく見開き、体を震わせ、歌い始め、さまざまな思い出や感情を語り出した。「音楽には〝覚醒〟の力がある。それを認知症の人全員に届けたい」。コーエン氏の願いは、実にシンプルだ。

 

この映画が共感を呼ぶのは、「音楽が、最も輝いていた頃の自分やその時代をいまに運ぶ」という、誰もが覚えがあるメッセージを含んでいること、また、認知症になっても心は生きているという、希望が持てる内容だからだと思う。

 

加えて、登場する医師はこんなことも言っている。「ほとんど効かない薬を開発する費用に比べれば、患者みんなにパーソナルソングを届けた方がよほど効果的ではないか」

 

予備軍も含めれば800万人を超す日本の認知症のケアの現場にも、多くの示唆に富む内容だ。


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