2014年10月27日 18:00 〜 19:10 10階ホール
試写会 「無知の知」

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会見リポート

原発事故インタビュー 「無知、後、悟り」開けたか

塩谷 喜雄 (日本経済新聞出身 科学ジャーナリスト)

発生から3年半以上たっても、原因の一端すら明らかになっていない福島原発事故。その巨大な迷宮に向かって、石田朝也監督はカメラとマイクだけを手に、インタビュー突撃取材を始めた。ドキュメンタリー作者として、米国の突貫小僧、マイケル・ムーア監督を視野に入れながら。


監督は、仮設住宅脇のお花畑で、避難住民の強烈なメディア批判に遭遇する。「マスコミのインタビュー取材は、私たちが話す中身を、自分たちのストーリーに合わせてねじ曲げる」


「無知の知」という映画のタイトルも、「ひとりの無知な男が聞いてみた。あのときのこと、これからのこと」という惹句も、この手厳しいメディア批判を踏まえた、予備知識抜きの無手勝流宣言なのだろう。


予断と偏見、思い込みとレッテル貼りを排して、相手の言葉と思いを、丸ごと受け止めようという監督の流儀は、部分的には成功している。


平穏で豊かな日常生活を、突然、理不尽に奪われた被災・避難住民だが、インタビューに応じた人々は、いまを前向きに生きている。淡々と、ある種の諦観を含んだ語り口からは、黙ってのみ込んできた不条理、悲嘆、絶望、怒りの痛みと重みが、浮かび上がってくる。


一方、理屈と制度を積み重ねた強固なシステムに対しては、無知は常識の虚を突く知的な剣たりえない。元原子力委員長や「御用学者と呼ばれた研究者」が披歴する、福島の現実とは無縁の「永遠の一般論」を、ただ甘受し、切り返せていない。


「無知の知」ではなく、「無知、後、悟り」を掲げ、迷宮の深奥に踏み込む次回作を期待する。マイケル・ムーアは、もっともらしい一般論の内実に潜む統計数字のワナや、論理のすり替えを見抜く博学の人だ。


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