2014年10月01日 18:00 〜 19:50 10階ホール
試写会 「イラク チグリスに浮かぶ平和」

申し込み締め切り

会見リポート

「日本が支持したことを覚えていますか」

舟越 美夏 (共同通信デジタル編成部)

偶然、会った先輩に誘われ、綿井健陽監督のドキュメンタリー映画「イラク チグリスに浮かぶ平和」を見た。あっという間の108分だった。


大量破壊兵器保有を理由にしたイラク戦争開戦から10年。あるイラク人家族を軸に映し出される年月は、やわなヒューマニズムをみじんにする理不尽な苦しみと生と死に満ちている。綿井氏は正面からそれを撮り続ける。綿井氏自身もストーリーの一部だ。彼の精神の強さにも、引き出される人々の言葉の力にも、深く感銘した。


「日本が支持したことを覚えていますか」


映画の中の問いに虚を突かれた。もちろん覚えている、と頭の中で私は自分に言い聞かせた。が、本当にそうか。「〇〇人死亡」というほぼ記号化した最近の報道に、その事実どころか、米軍の快進撃を強調する米メディアの従軍取材に抱いた危機感さえも、私の中でかすみつつあったではないか。米軍の誤爆で両足を失った女性の「米国を支援した日本にも責任がある」という言葉が、だから痛かったのだ。


「黙っていた私たちにも責任がある」。武装集団に銃撃された男性は言う。「何の意味も理由も大義もない戦争」。愛する3人の子どもたちを米軍空爆で失った主人公は言う。悲しみとやり場のない怒りを抱え、それでも新たな命が生まれ、人々は懸命に日々を生きる。歴史や人生の真実は、普通の人の言葉の中にある。あらためて、そう思った。


家族がチグリス川を遊覧する場面は、おとぎ話のように美しい。爆発もなく弾丸も届かない平和で安全な場所、チグリス川を巡る舟の上で、人々の表情は無防備なほどの幸福に輝く。この場面が永遠に続くことを観客は願う。だが、やがて舟は岸に着く。


ゲスト / Guest

  • 試写会 「イラク チグリスに浮かぶ平和」

ページのTOPへ