2014年03月17日 17:30 〜 19:40 10階ホール
試写会「ワレサ 連帯の男」

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会見リポート

後生に伝える貴重な証言

山崎 博康 (共同通信客員論説委員・元ワルシャワ支局長)

88歳になったアンジェイ・ワイダ監督の旺盛な創作意欲にまず圧倒される。今日の欧州はいかにして誕生したのか。その背景を同時代の証言として後世に伝えるのが本作の意図に違いない。


「ワレサ」「連帯」が歴史的にどのような役割を果たしたのか。若い世代には、その意義も希薄になりがちだ。まして世界では遠い過去のエピソードになりつつある。


そうした記憶の風化に映画は訴えかける。共産体制下に発足した初の独立労組「連帯」は民主化運動の狼煙を上げ、長い闘いの末「円卓合意」による自由選挙で圧勝、初の非共産政権を樹立する。これが「ベルリンの壁」崩壊に追い込む一連の東欧政変の皮切りとなり、東西欧州の一体化を実現させる原動力となった。


カリスマ的な指導者ワレサ氏は政変後、大統領も務めた。だが、映画は決して英雄扱いはせず、夫人思いの家庭人としての側面、弾圧された時代の夫妻の固い絆を丁寧に描く。


ノーベル平和賞の授賞式は再入国拒否に遭うことを恐れ、夫人を代理出席させる。オスロの授賞式を取材したが、夫人の帰国後に待ち受けた仕打ちは映画で初めて知った。治安当局が執拗にワレサ氏に協力者として署名を迫るシーンも克明に再現される。ワレサ氏を密告者と中傷する右派勢力を念頭に、真相を伝える狙いが感じられる。


非合法時代のワレサ氏をグダニスクに何度か訪ねた際に、一番印象に残るのは「地政学的環境」への言及だ。ソ連に干渉の口実を与えまいとする配慮からだ。ソ連は消滅したはずだが、最近のウクライナ情勢はあの闘いが過去のものではないことを物語る。現地では「連帯」型の市民運動も登場した。


冷戦崩壊から25年、東欧のEU加盟から10年。「連帯」の今日的な意味を考える上で貴重な作品である。


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