2013年07月29日 14:30 〜 15:30 10階ホール
近藤誠一 前文化庁長官 記者会見

会見メモ

7月7日に退任した近藤誠一・前文化庁長官が会見し、三保松原の逆転登録の背景を含め富士山の世界文化遺産登録の意義について話した。

司会 日本記者クラブ企画委員長 会田弘継(共同通信)


会見リポート

外交も世界遺産も カギは人間関係

藤井 裕介 (朝日新聞文化くらし報道部)

6月にカンボジアのプノンペンで開かれたユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界遺産委員会で、富士山の世界文化遺産登録が決まった。ユネスコの諮問機関・国際記念物遺跡会議(イコモス)が、景勝地として知られる三保松原を、構成資産から除外するよう事前に勧告したが、三保松原も含めて登録された。7月に文化庁長官を退任した近藤氏は、無理とみられた「逆転」の立役者として注目されている。


近年、イコモスが「登録延期」などを勧告したものが、世界遺産委員会で覆る例が見られるようになった。登録数の少ない一部途上国が中心になり、委員国に政治的なプレッシャーをかけて「逆転」させるのだという。


近藤氏は外交官出身で、ユネスコ日本政府代表部大使時代の2007年には石見銀山の世界文化遺産登録に関わったが、当時から世界遺産の「政治化」を懸念していたという。三保松原を含めた富士山の登録も「自分の案件は政治化してひっくり返した」と見られないよう、気を遣った。


プノンペンではまず、4人の「世界遺産委員会の権威」と接触。イコモスが、富士山から45キロ離れていることを問題視した三保松原について「目に見えないつながりがある。価値を主張しても政治的プレッシャーにはならない」との評価を得る。この評価を後ろ盾に、物的証拠重視のイコモス勧告を、厳格に尊重しようとする委員国を説得していった。


「どんな交渉も人間関係が大事」と振り返る近藤氏。委員国の大使らとは気心の知れた仲で、趣味や経歴も調べて長く関係を維持してきたからこそ「最後に分かってくれた」。


今後の世界遺産戦略は「目に見えない価値の主張は、次もうまくいく保証はない。物的証拠のあるものに絞ることが必要」と指摘。外交交渉も世界遺産戦略も、基本を見直す時だ、とのメッセージに聞こえた。


ゲスト / Guest

  • 近藤誠一 / Seiichi Kondo

    日本 / Japan

    前文化庁長官 / The former Commissioner Agency for Cultural Affairs of Japan

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