2013年06月21日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
「トルコ情勢」 内藤正典 同志社大大学院教授

会見メモ

今週初めまでトルコに滞在していた、同志社大学大学院の内藤正典教授が、3週間前に“ふつうの市民の怒り”から発したトルコ騒乱のこれまでの経過を振り返った。世俗主義派対イスラム主義政府の構図としてとらえるのは情勢を見誤ることになる、という。エルドアン政権を支持してきたイスラム保守層が、首相の独善的で、権威主義的な政権運営に不満を募らせている。この層を失うことで危機が深刻化する可能性がある。首相は、「ビッグゲームをつぶす」とのスローガンで反撃し始めた。ビッグゲームが何をさすかははっきりしないが、騒乱の背後にいると思われる一部財閥をターゲットにしているとも考えられる、と。

司会 日本記者クラブ委員 脇祐三(日本経済新聞)


会見リポート

「トルコの春」報道 欧米メディアの虚構

竹内 幸史 (元朝日新聞編集委員)

中東の中では比較的、政情が安定した「親日国」として知られてきたトルコ。エルドアン政権に対する抗議デモは、日本でも大きく報じられている。ところが、多くの報道は現象論にとどまり、この国の本当の悩みまで十分に伝わってはこない。一般的な関心は、東京とイスタンブールが立候補している2020年の五輪開催地選びにどう影響するか、という点にある。

そんな状況のなか、トルコ理解に多彩な視点を提供していただいた。2023年に建国100年を迎える「国のかたち」も含め、幅広い解説だった。

一連の出来事を読み解くキーワードは、「ビッグゲーム」である。エルドアン首相の飲酒規制などイスラム化政策に反対する世俗主義者がデモ行動の中心だとされるが、左翼陣営、クルド分離主義者も複雑に絡む。所得格差の拡大を不満とする勢力は意外に少なく、経済の急成長で既得権を失った一部の財閥がデモの仕掛け人としてうごめいている。

こうした政治構図とは対照的に、欧米メディアには「トルコの春」「内戦状態のトルコ」といった報道が目立つ。無抵抗で善良な市民が暴力的な警察と政府に抵抗している、という図式だ。CNNの記者は催涙弾など飛んでいない現場で防毒マスクをつけて中継をしていた。欧州連合(EU)にトルコを入れたくない国々の思いも反映しているようだ。

「人権侵害がひどかった昔のトルコのイメージで『虚構』を作り上げているのです」。外国メディアが他国の出来事を自分たちの鋳型にはめ、単純化している限り、本質を伝えることはできない。肝に銘ずべきだろう。

五輪については、欧州議会の中にエルドアン政権の非難決議をする動きが出ており、国際オリンピック委員会(IOC)の欧州委員らの考えに影響を及ぼす可能性があるという。

日本、トルコともに〝オウンゴール〟をした後のゲームの行方はまだ見えない。


ゲスト / Guest

  • 内藤正典 / Masanori Naito

    日本 / Japan

    同志社大大学院教授 / Graduate School of Global Studies, Doshisha University,

研究テーマ:「トルコ情勢」

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