会見リポート
2013年02月01日
14:00 〜 15:15
10階ホール
著者と語る『64(ロクヨン)』 横山秀夫 作家
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会見リポート
心のウラをとりたくて
内野 雅一 (毎日新聞夕刊編集部)
見たことがない光景だった。異臭が鼻をつく。1985年8月の群馬・御巣鷹山。日航ジャンボ機の墜落現場に立った私は、真夏の日差しのなかで体の震えを押さえることができなかった。久しぶりにお会いして、そのときのこと、新聞記者としての振り出しだった群馬県を思い出す。
当時、横山さんは上毛新聞の記者。県警記者クラブなどで見かけることはあったが、あまり話をしたことはなかった。「地元紙のできる記者」との評判も耳に入っていた。私は気後れしていたのかもしれない。その後、東京で記者生活を送っていた私が横山さんの消息を知ったのが、日航事故を題材にした『クライマーズ・ハイ』だった。「できる記者」がなぜ、転身したのか。この問いをずっと解けないままでいた。
「単独犯で仕事がしたいと思っても、新聞社は組織」「報道に携わるものとして誠実さに欠けていた」といくつか理由を挙げてくれたが、次の言葉に思いが凝縮されているのではないか。「報道の仕事の物足りなさを感じていた。事実のウラはとれるが、人の心のウラはとれない。事実をいくら積み重ねても真実にはならない。心を書きたい」。こう素直に話せることがうらやましい。心に触れたいと思いながら、これまではどこか途中で躊躇してきた自分を感じる。
転身後、順風満帆だったわけではない。7年間、引っ越しの仕事や代筆業などをして食いつなぎ、1998年『陰の季節』で小説家デビュー。直木賞候補になった『半落ち』を出した2002年ころから書いてきたのが、新作『64』だ。その間、心筋梗塞などの大病をくぐり抜けた。
講演記念に「矜持」と記帳した。なぜ? 聞いてみた。「きれいなまま持っていることができないもの。そのしっぽくらい踏んでいたい」。すっと、こう言い切れる。また思った。うらやましい。
ゲスト / Guest
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横山秀夫 / Hideo Yokoyama
作家
研究テーマ:著者と語る『64(ロクヨン)』