会見リポート
2012年12月03日
15:00 〜 16:30
10階ホール
著者と語る『しあわせ中国: 盛世2013年』(新潮社) 陳冠中 中国人作家
会見メモ
中国の将来を予言する近未来SF小説(2009年出版)で、英・仏訳など12カ国語で翻訳出版されている『しあわせ中国: 盛世2013年』(新潮社)の著者・陳冠中氏(上海出身、在北京)が、執筆の動機などについて話し、記者の質問に答えた。
質問 中井良則 日本記者クラブ専務理事
通訳 舘野雅子
会見リポート
「盛世」は偽の天国
長澤 孝昭 (時事総合研究所客員研究員)
太平と繁栄にあふれた「盛世」時代を謳歌する中国の現状は「偽の天国」であると喝破し、それを意図的に作り出した中国政府を批判したとも受け取れる近未来小説を発表した中国人作家を招いての会見だった。上海生まれながら、4歳で香港に転居。台湾にも住んで、北京定住は2000年から。
中国では08年頃から盛んに「盛世」という言葉が使われている。それに着想を得た本書が設定した近未来は2013年。中国政府は2年前に「盛世」時代をスタートさせたが、直前の28日間には全国的な動乱、食糧略奪、軍の都市進駐、警察の「厳打」(犯罪への厳罰適用)などが起こった。それなのに、ほとんどの中国人はそのことを覚えていない。幸福感に浸っている人たちばかりだ。しかし、そのことに納得できず、真実を探そうともがく、ごくわずかな人も存在していた。そんな物語だ。
中国の「盛世」はまだ数年だが、日本ではもう何十年も続いているのではないか。戦争はなく、人々の暮らしも表向き平穏だ。日本人も「偽の天国」を選択してしまったのかもしれない。そう思うと、これは日本の物語でもあるような気がしてきた。
最初に出版された09年から3年。英独仏日訳などが出たものの、中国本土では「発禁処分」。アプローチはあったが、レッドゾーンを越えた内容と見なされ、実際に出版に踏み切る出版社はないという。これだけの内容の本を発表し、身の危険を感じたことはなかったかとの質問に対して「当初はどうなるか分からなかったが、政府の役人が自宅に来ることはなかった。今は北京でおとなしく静かに暮らしている」と答えた。「中国政府は現状を『盛世』と呼んでいるが、後世の歴史家がそう認定するかは分からない」とも言い切った。気骨のある作家だ。
ゲスト / Guest
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陳冠中 / Chan Koonchung (Chen Guan Zhong)
中国 / China
作家 / Writer
研究テーマ:『しあわせ中国: 盛世2013年』