2012年10月20日 14:00 〜 16:00 10階ホール
上映会『テロリズムとケバブ』

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会見リポート

独裁政権下での庶民の悲哀

藤井 俊宏 (NHK前カイロ特派員)

ケバブとは、中東一帯で食べられている肉の串焼きのことだ。羊や鶏、牛などの肉を塩とコショウで味付けし、鉄の串に刺して炭火で焼く。ほどよく脂が落ちて、香ばしい。昨年の初め、政権崩壊直前のカイロでは、ケバブ屋ぐらいしか営業しておらず、連日食べるはめになった。


映画は、独裁政権下での庶民の悲哀を描いたコメディーだ。子どもの転校手続きのために役所を訪れながらも、たらいまわしにされ、いらつく主人公の男。ひょんなことから銃を持ってたてこもることになった。治安部隊が包囲するなか、男が要求したのは、ケバブだった。


硬直した官僚主義、働かない役人。昨年の民衆蜂起の底流には、こうした体質への不満もあった。加えて、低迷した雇用。就職できない若者たちが町にあふれる一方で、政権の周辺に富が集中。人々の怒りは爆発寸前だった。


映画では、ケバブではなく、ケンタッキーで我慢しろという内務省に人質も反発。お互いの身の上話をするなかで、苦労や困難を共有していることに気付き、権力に対して一致して対決しようという意識が生まれた。政権崩壊までの18日間、カイロのタハリール広場でも同様の光景が見られた。かつて政府の車に幼い息子をひき殺された父親は、何の謝罪も補償もなかったと訴え、雑貨屋を営む別の男性は「営業許可を取り消すぞ」と金をせびる役人への怒りをぶつけた。一人ひとりが個人的な経験をもとにタハリールに集まり、連帯を強めていた。


その後、ムスリム同胞団出身の大統領が誕生、イスラム勢力の台頭が際立つ。こうしたなかで、この映画の主人公を演じたアーデル・イマームは、出演した映画でイスラム教を侮辱した罪で3カ月の禁固刑を言い渡された。上訴審で判決は覆ったが、イスラム勢力が権力の座につくことで、表現の世界での規制が強まるのではないかと大きく報じられた。


中東で広く人気を集める映画を生み出してきたエジプト。さまざまな意見を受け入れる、おおらかな国であってほしいと願う。



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