2012年08月20日 15:00 〜 16:30 10階ホール
著者と語る『江戸文化再考 これからの近代を創るために』 中野三敏・九州大学名誉教授

会見メモ

『江戸文化再考 これからの近代を創るために』などの著者がある中野三敏・九州大学名誉教授が近代以前の日本文化理解には、和本リテラシーの必要性があると説き、記者の質問に答えた。

司会 日本記者クラブ企画委員 橋本五郎(読売新聞)

著書『江戸文化再考 これからの近代を創るために』(笠間書院)のページ

http://kasamashoin.jp/2012/06/post_2327.html

著書『古文書入門 くずし字で「百人一首」を楽しむ』(角川出版)のページ

http://www.kadokawa.co.jp/book/bk_detail.php?pcd=200910000146

会見リポート

“和本リテラシー”を初等教育に

橋本 五郎 (企画委員 読売新聞特別編集委員)

衝撃的な本であり、講演だった。「日本文化を大切にしよう」などと簡単に言うが、私たちはどれだけ足元を理解しているのか。明治以前につくられた書物はざっと200万点、そのうち活字になっているのはわずか1%にすぎないという。私たちは(全部読んだとしても)1%だけで日本文化を論じていたのだ。


しかも江戸時代についての理解がいかに江戸の現実とかけ離れていたか。「近代主義」的に評価できる部分だけをルーペとピンセットでつまみ食いしてきたか声を大に強調された。歴史研究には、現在から過去を裁断・断罪したり、過剰な意味づけをしてしまう「陥穽」が待ち構えている。江戸も例外ではない。「近代化」が官民挙げての要請だっただけに、いっそういびつになってしまったことが説得力をもって語られた。


第三の衝撃は、「和本リテラシー」、和本を読む能力についてである。和本を読める人は多く見積もっても、4、5千人という。総人口の0・004%にすぎない。そう言われて、自分もまったく読めないことに改めて愕然とした。資料として配付された樋口一葉の日記と手紙もまったく読めないのだ。


どうしてこうなったのか。それもこれも、明治33年の小学令で、平がなは一音一字、現行の平がなに限定されてしまったからなのだという。日本人の九割が尋常小学校どまりという現状に合わせた大英断ではあったが、その結果、先人が書いたものを読めなくなってしまった。


それでいいはずはない。どうすればいいのか。秘策はあると中野さんは言う。明治33年の逆をいけばいい。初等教育で和本をのぞかせ、こういうものが書かれていたことを教え、中等教育で変体仮名を学ばせる。そして30年待てばいいと。重い荷物を背負わされたような気持ちでプレスセンターを後にした。



ゲスト / Guest

  • 中野三敏 / Mitutoshi Nakano

    日本 / Japan

    九州大学名誉教授 / Professor Emeritus, Kyushu University

研究テーマ:著者と語る『江戸文化再考 これからの近代を創るために』(笠間書院 2012.7)

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