2012年07月25日 15:00 〜 16:30 10階ホール
著者と語る『驚きの介護民俗学』(医学書院)六車由実さん

会見メモ

日本記者クラブ主催の「著者と語る」で、『驚きの介護民俗学』(医学書院)を執筆した六車由実さんが会見し、記者の質問に答えた。

司会 日本記者クラブ企画委員 小栗泉(日本テレビ)

六車由実さんのホームページ

http://muguyumi.a.la9.jp/

医学書院の著書のページ

http://www.igaku-shoin.co.jp/bookDetail.do?book=84380


会見リポート

介護と民俗学をつなぐ

小栗 泉 (企画委員 日本テレビ解説委員・政治部担当副部長)

徘徊や同じ問いの繰り返しといった、認知症の高齢者特有のいわゆる「問題行動」も、この人の手にかかると、豊かな生活史を浮かび上がらせる魔法の杖となるようだ。


民俗学者の六車由実氏は、2008年に大学教員を辞め、09年から静岡県の特別養護老人ホームで介護職員として働き始めた。


六車氏が徹底して行うのは、高齢者からの「聞き書き」だ。細部の事実にこだわって、時にはメモをとりながらじっくり耳を傾ける。その上で、それぞれの話を「思い出の記」としてまとめ、高齢者本人とその家族に渡している。


「年寄りになって生きているなんて生き地獄だ」と言っていた高齢者が、六車氏の問いに答えるうちに、自らと社会とのつながりに気づき、自分の人生を肯定して安堵していく。六車氏は「高齢者介護は生前供養だ」という。


高齢者のためという一方で、「聞き書き」によって得た高齢者一人ひとりの「人生」が、その地域の資源や財産になるというのが六車氏の考えだ。


六車氏は、これまで交わることのなかった「介護」と「民俗学」という2つの世界それぞれに、新たな可能性を吹き込んだ。


慢性的な人手不足に悩み、トイレ介助に象徴される過酷な現場で、「介護民俗学」を広げていくことは、たやすいことではない。しかし、「高齢者介護」を六車氏のように、学術的な可能性の広がる場と捉える発想が、介護「する」側も「される」側も救うことにつながるのではないだろうか。


年齢を重ねることは、記憶や身体の機能を失っていくことだという恐れは、多くの人が感じていることだと思う。しかし、六車氏の話を聞いて、歳をとった後、意識的であれ、たとえ無意識であれ、自らの人生を素直に人に伝えられる時が来ることは、決して悪いものではない、という気がしてきた。



ゲスト / Guest

  • 六車由実 / Yumi Muguruma

    民俗学者 特別養護老人ホーム介護職員

研究テーマ:著者と語る『驚きの介護民俗学』

ページのTOPへ