2012年02月21日 13:00 〜 14:30 10階ホール
著者と語る 水谷竹秀 日刊マニラ新聞記者

会見メモ

著者と語る『日本を捨てた男たち-フィリピンでホームレス-』

第九回開高健ノンフィクション賞受賞

http://www.shueisha.co.jp/shuppan4syo/23nen/outline01.html


司会 露木茂 日本記者クラブ企画委員


日刊マニラ新聞のホームページ

http://www.manila-shimbun.com/


会見リポート

「困窮邦人」救う比社会から見えるもの

井田 純 (毎日新聞夕刊編集部)

海外で有り金を使い果たし、ホームレスのような状態に至った「困窮邦人」たち。その数が世界最多というフィリピンの現状を紹介したルポは、個々の「転落」ぶりを描きつつ、背景にある日本社会の現状を考える視座を提供してくれた。会見での訥々とした口調も、誠実な取材ぶりをうかがわせるものだった。


読者からの反響は「自業自得で同情できない」というものと「ひょっとしたら自分もこうなるのでは。他人事でない」という二つに分かれ、むしろ若い世代に厳しい意見が多い、という。今の日本社会での「自己責任」をめぐる世代別意識の一端を表しているようで興味深い。


水谷氏自身、困窮邦人たちがフィリピンパブにおぼれていった経緯や、嘘で自らを糊塗する姿への厳しい視点を示しつつも、自身も含めた人間の「弱さ」に対する温かい気持ちを言葉の端々ににじませた。彼らが逃げてきた国・日本で重ねた取材で、地方都市の疲弊、孤独死といった問題を見出しながら、紋切型の社会告発に陥っていない。その取材対象との距離の保ち方、バランス感覚は、日々悩み、自問する取材者本人の姿勢から生まれるということを改めて教えてくれる会見だった。


著作刊行後、月に1回程度は帰国するという水谷氏。印象的だったのは、両国の「街の視線」の比較だった。「上野公園では、通行人はまるでホームレスが存在しないかのように脇を通り過ぎる。フィリピン人は、ホームレスも一人の人間として接している」。水谷氏が記者活動をスタートさせる数カ月前までマニラに駐在していた筆者にも、あいさつを交わす間柄のフィリピン人ホームレスがいた。自ら貧困にありながら、社会の一員としての困窮邦人を助けるフィリピン人の姿は、「社会を支える」ことに関する倫理的問いを改めて突きつけているように思えた。


ゲスト / Guest

  • 水谷竹秀 / Takehide Mizutani

    日刊マニラ新聞記者 / Journalist, The Daily Manila Shimbun

研究テーマ:著者と語る『日本を捨てた男たちーフィリピンでホームレスー』

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