会見リポート
2011年12月16日
14:00 〜 15:00
研究会「TPP」④中川俊男・日本医師会副会長
会見メモ
会見リポート
「TPP否定せず」と言うなら…
大林 尚 (日本経済新聞編集委員兼論説委員)
常々感じているのだが、日本医師会がみずからの立場を世に訴えかける力は、並大抵ではない。
情報収集のために張り巡らせた網は、じつに幅広い。健康情報から生命倫理の問題、さらには政治や政策の動きをウオッチし続けることにも力を注いでいる。シンクタンクの日医総研を擁し、医療界に影響をおよぼしうる制度改革にどう対処するか、警戒は怠りない。
TPP研究会は、その成果を披露する場になった。中川氏の主張は、TPPは半世紀にわたる国民皆保険制をおびやかす、という一点に尽きる。「皆保険崩壊」にいたる過程を、ある意味で説得力をもたせるように整えた資料を携えて「TPPは究極の規制緩和だ」「民主党政権になって医療の規制改革に加速度がついた」と話した。
日本医師会は医療分野に市場メカニズムを持ち込むことに、一貫して後ろ向きだ。小泉政権の時代、その流れに弾みがついたことに業を煮やし、民主党政権の誕生後は、政権との関係を再構築すべく執行部の体制を刷新した。
執行部の思惑は空回り気味だ。菅政権は、閣議決定した包括的経済連携に関する基本方針に「競争力強化などの抜本的な国内改革を先行的に推進する」と記した。これに堪忍袋の緒が切れた。
国を開いて内外の人・もの・お金の流れをよりスムーズにし、各国間で制度を調和させてゆく改革は避けがたい。消費税増税と同様、その課題には、どの政権であっても向き合わざるを得ない。
たとえば、外国人や富裕層を対象に先進医療を担う病院の出現が考えられる。そのとき、ふつうの患者が不利益を被らない仕組みづくりこそが、日本医師会の仕事ではないだろうか。
中川氏は、TPPそのものは否定しないと述べた。そうであれば、新たな開国は避けられないと覚悟し、医療のグローバル化への備えを急ぐときだと思う。
ゲスト / Guest
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中川俊男 / Toshio NAKAGAWA
日本 / Japan
日本医師会副会長 / Vice-Chairman, Japan Medical Association
研究テーマ:TPP
研究会回数:4