2011年11月22日 18:00 〜 19:45 10階ホール
試写会 「風にそよぐ草」

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会見リポート

機微とエスプリ 深淵な人生哲学

西島 雄造 (読売新聞出身)

映画が映画らしかった時代のファンなら、監督アラン・レネの名を懐かしまないはずはない。


ナチス強制収容所のユダヤ人虐殺を描いた31分のドキュメンタリー『夜と霧』(1955)で、その名を世界に知られたが、日本では『夜と霧』の前に公開された長編第1作『ヒロシマモナムール』(59)が、フランス映画の《新しい波》を印象づけた。


駆け出し記者として青森に赴任したばかりだったが、支局長の目を盗み飛び込んだ映画館の銀幕に映された『二十四時間の情事』。この邦題は無名にひとしい監督と主演女優エマニュエル・リバによる日仏合作の作品を、なんとか興行的に成功させようと目論む宣伝部の苦心のほどをうかがわせたが、端正な風貌の岡田英次の共演も成果を上げなかった。それから半世紀。ことし89歳になる監督は健在かつ変容していた。


男と女が出会う。出会うにはきっかけがいる。『風にそよぐ草』のヒロイン、歯科医のマルグリットが、ひったくりに遭う。バッグのなかの財布は駐車場に捨てられた。


拾ったのは撮影時63歳のアンドレ・デュソリェ演じるジョルジュ。男として枯れるにはまだ早い。財布に残されたパイロットのライセンスを手掛かりに、電話攻勢を始める。年甲斐もなくストーカーはだしだが、この“色気”は見習いたくもある。


あれこれ悶着はあるから、原作はあっても、物語の落としどころこそ脚本と演出の手練がものをいう。


遺失物を仲介する警察官に扮するのは『潜水服は蝶の夢を見る』(03)で絶妙の演技を見せたマチュー・アマルリック。余談ながら父親は「ル・モンド」の記者。妙に理屈っぽい警官ぶりが笑わせる。


機微とエスプリと滑稽に満ちた104分が気持ちよく流れる。子どもが母親に尋ねる“猫”のオチに、深淵な人生哲学が読みとれる。


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