2011年09月06日 14:00 〜 15:30 10階ホール
エマニュエル・トッド氏を囲む会

会見メモ

フランスの歴史人口学者、エマニュエル・トッドEmmanuel TODD氏が「9.11、アメリカ、そしてアラブ革命」のテーマで話し、質問に答えた。


トッド氏は①出生率の低下②識字率の向上③いとこ同士で結婚する内婚率の低下--の3つの指標で家族制度と社会の変化を分析する。これらの指標は、自立した個人の出現を意味し、政治の近代化を用意するという。アラブ革命の先頭を切ったチュニジアの場合、女性が生む子供は2人と欧米と同じ水準に下がり、識字率も高かったことから、独裁に抵抗する近代化の動きが出てくるはずと予想していた、という。アラブの現状について、民主化が広がるアフリカ的アラブと、権威主義的な政治が残る中東・アジア的アラブとの二つの地域に分割されつつある、と述べ、その背景に中東的アラブでは出生率が3以下にならないことを指摘した。3つの指標は世界のあらゆる地域で起こっており、グローバリゼーションのなかでも識字率の向上が最も重要だ、と説明した。

日本の福島原発事故や核武装の質問にも答え、核兵器は平和を支えるのに対し、原子力のエネルギー利用は危険なものだとの見方を示した。トッド氏は以前から原発に好意的だったと述べた上で、原発は巨大なリスクがあり事故の影響が大きい、と指摘。日本人には核兵器への拒否感があるのに、(原発を受け入れ)核に対する態度に非合理的な傾向がある、と述べた。日本の核武装については、中国が台頭し、米国が衰退する中で、今後、日本の選択肢は①米国の庇護下②核武装③中国に従属--の3つであり、核武装のオプションが日本にはあるとの従来の意見は変わらない、と答えた。

さらに、「移行期の危機―鎮静化」という考え方で日本とフランスの近代化や民主主義の現状について説明した。


司会 日本記者クラブ企画委員 会田弘継(共同通信)

通訳 堀茂樹・慶応大学教授


2009.10.19日本記者クラブでの講演(youtube動画)

http://www.youtube.com/user/jnpc#p/search/0/rt2tqS4pS-8


藤原書店 著者紹介のエマニュエル・トッド氏のページ

http://fujiwara-shoten.co.jp/main/authors/archives/2007/12/post.php



会見リポート

アラブ革命の隠れた原因

諏訪 正人 (毎日新聞出身)

9・11のお返しに米国は乱暴にアラブ世界に介入し、民主主義を導入しようとしたが、だめだった。10年後、皮肉なことにチュニジア、エジプト、リビアで正真正銘の革命が起きた。E・トッド氏はこう述べて、アラブ革命の隠れた原因を分析した。


まず出生率の低下。チュニジアでは1人の女性が生む子どもの数は2人と欧米と同水準まで下がった。シリア、ヨルダンなどは数年前まで6以上だったが、いまや3~4に低下した。


次に識字率。とくに女性の識字率の向上は著しく、出生率低下に大きく寄与している。18世紀のフランス大革命、20世紀初頭のロシア革命でも、革命前夜に若者の識字率が60%を超えたことが認められている。


しかしチュニジアのように出生率の低下、識字率の上昇が見られながら、近代化に踏み切れなかったのは内婚率(つまりいとこ同士の結婚)がブレーキになっていたためだ。最近、若い世代で内婚は時代遅れになり、外婚時代を迎えている。内婚から外婚。多年閉ざされた社会はついに開き放たれ、個人が出現した。革命が起きたわけだ。


歴史人口学者として、アラブ社会の変化を見守ってきたトッド氏は「社会の表面の現象にばかり目を奪われないで、社会の深層に立ち入って目をこらし、検証することが必要だ。深いところで見ていると、社会の構造が変化しているのがよく見える」と述べている。


これはなにもアラブ社会に限らない。すべてのジャーナリストが心がけねばならない大切な指摘だろう。


E・トッド氏の祖父ポール・ニザン氏はサルトルのリセの同級生。代表作『アデン、アラビア』は日本でも新訳が出て、読み継がれている。そのゆかりもあって、懐かしく聞いた。


ゲスト / Guest

  • エマニュエル・トッド / Emmanuel Todd

    フランス / France

    歴史人口学者

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