2011年07月20日 17:30 〜 19:35 10階ホール
試写会「一枚のハガキ」

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会見リポート

現役明治人 反戦への思い

松永 太 (東京新聞出身)

中年水兵百名の迫力ある群像から物語が始まる。水兵たちは、予科練の兵舎になる天理教宿舎の清掃が任務だった。2段ベッドで就寝前の雑談を交わす一人が、年上の戦友からその妻のハガキを見せられる。「今日はお祭りですが あなたがいらっしゃられないので何の風情もありません」


この妻がヒロインとして全巻出ずっぱりだが、タイトルになったハガキが再び登場するのはフィナーレに近い。夫は次の任務としてフィリピン戦線に派遣される途中、船が沈み戦死する。くじ引きで百人から選ばれた60人のひとりだ。妻は年老いたしゅうと夫婦に泣きつかれて義弟と再婚させられるが、彼も陸軍に招集されて戦死してしまう。反戦を胸に秘めたヒロインの波乱万丈が映画の本筋である。妻を演じる大竹しのぶの控え目な色気と、精いっぱいの演技がすばらしい。


復員して愛妻が父親と出奔した事実を知った戦友は、漁師をあきらめてブラジル移住を考える。身辺整理しながら「一枚のハガキ」が出てくる。それを持ってヒロインの山村を訪れるのが後半の筋書きになる。


時代考証はしっかりしている。最近の映画やテレビに映る昭和時代は、戦前戦中を知らない専門家の考証らしく、見るに堪えない珍妙場面が多いが、さすが新藤兼人監督作品だけに安心して見ておられる。海軍のことはよく知らないが、百人の水兵のうちで生き残った6人の1人である新藤監督の実体験を基にした作品だから間違いないだろう。ただ一つ、ハガキの文面が新仮名遣いである点は、上手の手から漏れた一滴と惜しまれる。


監督は1912年生まれ、明治の最後の年であり大正の最初の年でもある。数え年で百歳になる。4月生まれの希少な現役明治人として少しも衰えを見せない。


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