2011年07月09日 11:30 〜 12:30 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」 玄侑宗久さん

会見メモ

芥川賞作家で復興構想会議委員の玄侑宗久さんが、原発事故被災の福島の現状や復興への考えを語り、質問に答えた。


≪「情報価値の暴落、というか、なにかいわれても『どうせ、また』という無気力感を生んでいる」≫


玄侑さんは、福島県で自殺者が増えていることに関連し、仏教の無常観は、「いつまでも最悪が続かない」と明るい方向に作用するのに、福島原発から飛散した放射線がいつまでも残ってしまう事態は「諸行無常に反する」と述べた。地震と津波により寺や神社が被災し、追悼や鎮魂といいながら宗教施設が破壊され、檀家や氏子もいなくなって、このままでは立ち直れない、と指摘した。

復興構想会議の提言に「神社仏閣教会」あるいは「地域コミュニティ施設」への支援を書き入れるよう構想会議で訴えたが、「神社仏閣教会」と書くのは憲法違反だといわれ実現できなかったと紹介し、「残念だった」と述べた。

また、避難区域に残った家畜について、内部被ばくしているという理由で国は殺処分を決めたが、「そんな理由を認めると、福島県民への差別を認めることになる。牛に筋弛緩剤を注射し、消石灰をかけブルーシートをかけて放置する。畜産業の人に踏み絵を踏ませるのか。せめて内部被ばくの研究のために残してほしい」と述べた。

さらに、「あのプラント(原発)を作った企業にいまだに任せている。容疑者がいつまで記者会見するのか」と原発事故対策を批判した。「福島では、情報価値の暴落、というか、『どうせ、また』という無気力を生んでいる。最悪だが、そういう状態だ」と現場で暮らす人々の思いを語った。


司会 日本記者クラブ企画委員 露木茂


玄侑宗久さん公式サイト

http://www.genyu-sokyu.com/


会見リポート

差別のまなざし許すな

中村 陽子 (東京新聞文化部)

3・11以降、テレビや各紙誌のインタビューに引っ張りだこだった玄侑宗久さん。「フクシマ」の怒りを的確に表現でき、大きな喪失感に対する救いの言葉も持ち合わせている人を探すと、どうしても彼に行き着くのだろう。


「語ることで、直接現実を動かせるなら」と、政府の復興構想会議のメンバーにも入り、震災にまつわる依頼に、できる限り応じてきたという。この会見でも「動かすべき現実」を数多く指摘した。


「最も深刻な問題」として挙げたのは原発周辺の市町村から、他の地域への住民の流出。3~5月の福島県は、約1万7千人の転出超過で「住民票を移さないまま出て行った人も大勢いる」。これらの状況を、世界に分散するユダヤの人びとや華僑に例え「彼らは厳しい戒律や祭りによって連帯感を持てるが、フクシマから避難した人たちはそうはいかない。元町民としてのアイデンテティは、溶融しつつある」と、「行政機能のメルトダウン」に危機感を示した。「税金が入らず、維持も難しい。町そのものを支援しなくては」


また原発から20㌔圏内の家畜の殺処分についても、強く反対を表明。「畜産に生きてきた人にとっては、たとえ商品にならなくても、殺処分はできない。BSEや口蹄疫などの感染症とは違う」と指摘し、「内部被曝をしているかもしれないからという理由での殺処分は、絶対に認めてはいけない。内部被曝が否定できない福島県民への差別のまなざしを許すことにつながる」と訴えた。


震災の直前、取り掛かったばかりだった長編は、いまも中断したままだという。この日の午後、別の講演では「そろそろ書きたい気持ちが高まってきた」とも話していた。文化部記者としては、一連の出来事が、どのような小説の言葉に変わるのかにも注目している。


ゲスト / Guest

  • 玄侑宗久 / Sokyu GENYU

    日本 / Japan

    作家、復興構想会議委員

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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