2011年06月21日 15:00 〜 16:30 10階ホール
研究会「世界の新聞・メディア」⑭ 林香里 東京大学大学院情報学環教授

会見メモ

シリーズ企画「世界の新聞・メディア」⑭で林香里・東京大学大学院情報学環教授が、「欧州およびドイツのジャーナリズム事情」について語った。


冒頭、域内での保護主義を排し自由貿易を進めるEUの経済統合策と、いかにしてEU加盟国内の言論の多様性を確保するかが課題になっていると現状を解説した。

また、政治システムをもとに分類した以下のようなメディア・システムの3つのモデルを紹介した。

1.地中海型モデル(70年代以降の新しい民主主義国家)。

2.北・中欧型(コーポラティスト、複数政党・社会民主主義)。

3.アングロサクソン型(二大政党制・自由主義)


ドイツを含む北・中欧型モデルでは、「言論の多様性実現」がキーワード。そのためには少数意見をすくい上げる仕組みが必要とされる。国からメディアへの助成金などを認めている点や、特に放送分野では公共放送が中心になっていることを説明した。

ただし、民放からは「公共放送を重視しすぎているのでは」との批判はこれまでも続いてきていることにも言及。さらに90年代以降は、主に東欧へ向けた資本の流入に伴って、多国籍化、多メディア化といった国境を越えた統合も進んできていると具体例を交えながら説明した。


また今回の日本の震災について、ドイツでどのような報道が見られたのかについても印象を語った。


司会 日本記者クラブ企画委員 高畑昭男(産経新聞)


東京大学大学院情報学環のホームページ

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/

林香里研究室のホームページ

http://www.iii.u-tokyo.ac.jp/professor.php?id=370


会見リポート

中立+大衆迎合=「愚」!?

桜庭 薫 (日経CNBC経済解説部次長)

「東京を放射能の雲が襲うのよ。子どもだけでもすぐによこしなさい」──。福島第一原発事故の発生数日後、欧州の友人宅から妻に悲鳴にも似た緊急連絡が入った。欧州では日本と違い、関係機関が直ちに放射性物質の拡散予想情報を公開した。友人に対する我が家の反応は「気持ちはありがたいけど、大丈夫だから」というのんきなものだった。


被災国ニッポンの私たちが妙に冷静で、遠く離れた欧州の市民がガイガーカウンターを買い占める落差はどこから生まれるのか。報道の在り方に一因があるような気がしてならなかったが、今回の報告を聞いて、その思いは深まった。


独高級紙の一面トップを「曇り空の東京」の写真が飾った。これは「放射能に汚染された東京」の低俗で悪質な暗喩にほかならない。「脱原発」を果たしたドイツでさえ、この程度の報道が幅を利かす背景に、厳しい競争にさらされるメディアの間に、ポピュリズム(大衆迎合主義)が広がっていることが関係している感じがする。


林教授によると、欧州のメディア界で国境、言語を問わず、資本の集中が進んでいる。いまのところ、西欧大手は買収先の中・東欧メディアに対し、編集への口出しはしないそうだ。ただ、大手に救ってもらえない弱小メディアは姿を消すのみだ。


欧州連合(EU)がメディアの自由化を優先する立場を変えていないことから、メディアにおける資本の論理は強まりそうだ。文化の多元性尊重を通じ、地域性の維持を掲げるEUにしては、見立てが楽観過ぎやしないか。


かたや日本メディアの報道姿勢は中立重視だそうだ。原発事故についても、都合の良い「中立」報道が目に付くように思う。放射性物質は「中立」と「大衆迎合」によって味付けされながら地球を周回するうち、冒頭のような「愚」を生み出したのである。


ゲスト / Guest

  • 林香里 / Kaori HAYASHI

    日本 / Japan

    東京大学大学院情報学環教授 / The University of Tokyo Interfaculty Initiative in Information Studies

研究テーマ:世界の新聞・メディア

研究会回数:0

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