2011年05月20日 16:15 〜 17:15 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」「復興構想会議への要望・提言」北澤宏一 科学技術振興機構理事長

会見メモ

日本学術会議東日本大震災対策委員会の「エネルギー政策の選択肢分科会」委員長として、震災後の原発政策提言を準備している北澤宏一氏(東京大学名誉教授)が「エネルギー政策の選択肢と日本の投資余力」と題して話し、質問に答えた。


≪「日本の原発をすべて止められたら」と人々は地震後に感じ、「でも恐ろしいことになる」とも感じている。しかし、すべての原発をただちに止めると、どうなるかだれも説明していない。≫


北澤さんは、日本が地震国として特殊な国であることを指摘した上で、世界の太陽電池の値段が急速に低下している現状を紹介し、震災後のエネルギー政策として原子力を卒業する「卒原子力のコスト」をとりあげた。日本の原子力発電を家庭用小型太陽電池ですべて置き換えた場合、1世帯あたり一日缶ジュース1本(130円)相当の出費が増える程度との試算を示した。

学術会議分科会は、A案・ただちに原発をすべて停止する脱原発、B案・5年間で新エネルギーと省電力を達成し、原発を止める、C案・20年かけて脱原発を終了、D案・原発の安全を確保し原発を維持する――の4つの選択肢について分析し、6月中旬に報告をまとめる。

パソコンや携帯電話の新技術でGDPが増えると「経済成長」といわれるのに、新エネルギーへの投資は「経済負担」と心配するのはなぜか、と問題提起し、再生可能エネルギーという価値ある新事業への投資を続ける仕組みを日本が見出すよう求めた。また、日本の対外純資産は276兆円で世界最大であり、国内投資に振り向ける余力があるはず、と強調した。

司会 日本記者クラブ理事 宇治敏彦 (東京新聞)


資料
http://www.jnpc.or.jp/files/2012/01/c1576442198689e95dc184329265b32e.pdf

日本学術会議のホームページ

http://www.scj.go.jp/index.html

科学技術振興機構のホームページ

http://www.jst.go.jp/



会見リポート

原子力の妥当性一から検討

小岩井忠道 (元共同通信科学部長)

内外が固唾を飲んで注視する福島第一原子力発電所事故を機に、日本はどのようなエネルギー政策を選択すべきか。科学技術振興機構理事長という立場ではなく、科学者の代表機関である日本学術会議の会員としての講演だ。

 

原子力がなくなると日本社会はやっていけないという“通説”が本当に妥当か。どこかがきちんと考える必要がある─。日本学術会議で提案したら、自分が委員長にされた、という。6月末までに中間報告をまとめるということだが、原子力発電所がどんな事態に陥っても安全な方向に作動する「フェイルセーフにのっとって設計されていないことに驚いた」という感想が、まず明快だ。

 

「直ちに原子力発電をやめる」「5年間で原子力発電をやめる」「20年かけてやめる」「安全性を確保して原子力発電を維持する」─という4つのシナリオを設定して、検討を始めたことを紹介し、各シナリオの現在までの検討状況を詳しく説明した。

 

世界の自然エネルギーへの投資額が2010年には20兆円になり、3年前と比べ5倍の増加。原子力発電推進に熱心とみられていた中国が、再生可能エネルギー投資で世界一になっている。再生可能エネルギーに対する熱が冷めている日本の投資額が、欧米諸国、中国、ブラジル、インドより下回っている─。こうした指摘に驚いた人も多いのではないか。

 

「日本の貿易黒字がこの25年間、毎年平均10兆円あり、海外投資の正味蓄積額が2009年で276兆円と世界最大になっている。この一部を国内投資に振り向けるよう国内に『もうかるメカニズム』をつくるべきだ」という持論も、今の時期にはより新鮮だ。

 

「菅政権の現在の対応からみると、実際にシナリオ1(直ちに脱原発)とシナリオ2(5年で卒原発)の中間のスピードで現在動いている」という見方も興味深い。


ゲスト / Guest

  • 北澤宏一 / Koichi KITAZAWA

    日本 / Japan

    科学技術振興機構理事長 / President, Japan Science and Technology Agency

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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