2011年05月10日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
シリーズ企画「3.11大震災」 松浦祥次郎 元原子力安全委員会委員長

会見メモ

2000年から2006年まで原子力安全委員会委員長を務めた松浦祥次郎氏(原子力安全研究協会会長)が企画「3・11大震災」で、「福島第一原発事故の教訓:安全確保の視点から」と題して話し、質問に答えた。


≪「原発の安全設計審査の指針では、『長期間の全電源喪失は考慮しなくてもよい』と定めている。日本では安定した電力供給を当たり前のこととしてきたが、安全文化の視点からいうと、(これまでは問題がなかったからと)よりかかるのは危ない。落とし穴に入っていたと反省している≫


松浦さんは、冒頭「原子力に取り組んできた人生の最後になって、原子力が社会に災厄を及ぼす事態となったのは残念であり申し訳ない」と述べた。

原子力の安全確保の目的は「放射線障害の防止」にあり、福島原発事故では防護策の最終段階である「レベル5」を発動することで、住民が避難し、住民の放射線障害を防止したことを指摘した。しかし、放射線防護とは(人間の)生物学的防護のみで、人々の生活やコミュニティの防護が欠けていた、と反省の弁を述べた。「今後、原発が社会に受け入れてもらえるか危機感を持っている。生活やコミュニティの防護を作るしかなく、これができるかどうかが、今後の大きな問題となる」と危機感を示した。

また、原子力安全委員会の責任と位置付けられる原発の安全設計審査指針を説明した。今回の事故で重要なのは、長期間の電源喪失がこれまで発生しなかった実績にもとづいて「長期間の全交流電源喪失は考慮しなくてよい」という指針が採用されていることだ、と指摘した。安全文化で戒める「長期の良好実績に基づく落とし穴」に陥っていた、と述べ、再検討をうながした。

さらに、M9.0の大地震や大津波を想定できなかったことについて、これまでの科学知識の外側にある自然現象が起こったのは、「科学の限界の外の現象」つまりトランスサイエンスの領域ではないか、と述べた。想定外とされる事故はほとんどがトランスサイエンスの問題であり、安全確保にトランスサイエンスをどう組み込み内包するか、が問われると提起した。具体的には「全電源喪失でも自然冷却するような原子炉の開発」をとりあげた。

菅首相が浜岡原発停止を中部電力に要請したことに関して「首相が判断する前に、原子力安全委員会や安全保安院に助言を求めるべきであり、助言を踏まえ必要と判断するなら、要請ではなく行政命令で停止させるべきだった。中部電力が要請をうけ会社側の責任で停止することはフェアかどうか疑問がある」と疑念を呈した。

司会 日本記者クラブ企画委員 神志名泰裕(NHK)


レジュメ

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/05/25241639d356390e3e3185e319ad78dd.pdf


5月10日付電気新聞より抜粋

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/05/9150d9209314e6398c288da234e56212.pdf


原子力安全研究協会のホームページ

http://www.nsra.or.jp/index.html


原子力安全委員会のホームページ

http://www.nsc.go.jp/index.htm


会見リポート

原子力は役に立つと信じたのに

小出 重幸 (元読売新聞編集委員)

東京電力・福島第一原子力発電所の事故以降、原子力の世界には、人の心に届く言葉で語ることのできる科学者と、借り物の言葉しか発せられない科学者の二通りあることが鮮明となったが、元原子力安全委員長の松浦祥次郎氏は、前者を代表する技術者である。


「原子力技術は人間社会の役に立つと信じて、50年間、これに傾注してきたが、最後にいたって最悪な結果をもたらすことになってしまった。たいへん残念であり、また、みなさんに申し訳なく思っている」


謝罪のあいさつから始まった講演は、事故想定の判断の甘さに対する反省と同時に、自然災害に対しては、データと有効数値に依拠する従来の科学的手法だけでは対処できず、自然・社会・科学を結んで想定外を判断するトランス・サイエンスの手法が必要だと指摘した。


事故対応では「原子力との戦争」という厳しい認識が政府や東電に欠けていたと、指揮系統の不在や情報公開の遅れを批判。また放射線影響は、広範囲の住民を混乱させると同時に、強制退去など、地域社会にも多大な影響を与えた。これを受け、「放射線防護はもっぱら身体的被害の防止を考え、今回のような地域コミュニティ崩壊という深刻な被害までは想定してこなかった」と、従来の原子力安全文化の欠陥を反省。「住民生活や地域社会保護の思想を導入するなど、事故から学ぶべき事は多い」と、今回の例を教訓とし、国際的にも早急に対策に取り組むよう、うながした。


「原子爆弾で日本は大きな被害を受けたが、日本の復興と将来の幸せのために原子力エネルギーを活用してほしい」という長崎原爆の犠牲者、永井隆博士(長崎医科大教授)の言葉を引き、あらためて原子力の利用法を見直したいと語った。推進と反対で不毛な対立を重ねた報道も同じく、原点に立ち返って再構築する必要を感じた。


ゲスト / Guest

  • 松浦祥次郎 / Shojiro MATSUURA

    日本 / Japan

    元原子力安全委員会委員長 / Former-Chair, The Nuclear Safety Commission

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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