2011年05月16日 15:00 〜 16:00 10階ホール
シリーズ企画「3.11大震災」 松井豊  筑波大学教授(社会心理学)

会見メモ

災害を取材するジャーナリストのストレスに詳しい松井豊・筑波大教授(社会心理学)が「東日本大震災における惨事ストレス」をテーマに話し、被災者の心理やジャーナリストのストレスについて語った。松井教授は「報道人ストレス研究会」で活動している。


≪「がんばろう東北」キャンペーンは危険だ。「一緒に生きていこう」といったメッセージの方がいいのではないか」≫


松井教授は東日本大震災の被災者の心理として「下方比較」が広くみられることを指摘した。「自分より境遇が悪い人と比べ、自分はまだましだ」と考えてしまう傾向で、家族の遺体と対面しても「まだ、遺体が見つからない人がいるから、自分はまだましだ」と思い込んでしまうことがある、という。怒りやうつ、生き残りの罪悪感に苦しむ被災者も多い。「がんばろう、がんばれ、と励ますのは危険な時がある」と警告した。

被災地を取材する記者に対して、被災者には話さない自由があるし、取材を記者の都合で一方的に終わらせるのではなく、語る側が終わらせるようにしてほしい、とよびかけた。記者が惨事ストレスにおちいる場合もあり、上司や職場が記者をほめたり話しあう配慮が必要だ、と指摘した。


司会 日本記者クラブ企画委員 宮田一雄(産経新聞)


配布資料

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/05/ed05557d37c5ebca2181501d2ab6a108.pdf

報道人ストレス研究会の惨事ストレスのケアに関する情報サイト

http://www.human.tsukuba.ac.jp/~ymatsui/


会見リポート

惨事ストレス軽減「ほめること」

宮田 一雄 (産経新聞特別記者)

東日本大震災では多数の記者が取材を続けている。想像を絶する惨状に心が沈み込むことも多い。


松井教授は戦争や災害などの取材がジャーナリストにもたらす惨事ストレスを研究してきた。被災者、被害者の現状を伝え、社会の支援を促して社会正義を保つ。惨事ストレスの軽減がそうした健康なジャーナリズムにつながると考えるからだ。


東日本大震災は被害があまりに広域かつ巨大で、急性期が長期化している。その中で被災者に向けたメッセージとして「がんばろう、東北キャンペーン」は危険だと指摘する。「これ以上、どうがんばれというのか」と負担感が一層、増すおそれがあるからだ。「一緒に生きていこうでいいと思う」という。


発生直後には、取材者に「興奮状態が続く」「体験したことを繰り返し思い出す」「思い出す

ことを避けようとする」「周囲と摩擦を起こしやすい」といった反応が出てくる。


その対応には「少しでも休養をとる」「仲間や上司と話す」「家族など親しい人とともに過ごす」の3点が重要だ。


2カ月以降は「身体の不調」「緊張や不安がとれない」「自分を責めて、ふさぎ込む」「災害にかかわることを避ける」「孤立を感じる」といった症状がみられるようになるので、積極的なストレス解消が必要になる。休養に加え、体験を話し合う機会を持ったり、周囲がほめたりすることが有効だという。


ジャーナリストは職業柄、批判は得意でも、ほめるのは苦手な傾向がある。どうほめるのか。少々、愚問だが、尋ねてみた。


「あなたのような大ベテランのジャーナリストが記事を読んだよと伝えるだけで、元気になりますよ」


不覚にも、すっかりいい気分になってしまった。ほめ上手の心理学者には及びもつかないが、せめて努力はしてみましょう。


ゲスト / Guest

  • 松井豊 / Yutaka MATSUI

    日本 / Japan

    筑波大学教授(社会心理学) / Professor, Tsukuba University

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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