2011年04月25日 15:00 〜 16:30 10階ホール
著者と語る 『格差と貧困のないデンマーク』 千葉忠夫

会見メモ

「格差と貧困のないデンマーク」「世界一幸福な国デンマークの暮らし方」(いずれもPHP新書)の著者、千葉忠夫さんがシリーズ「著者と語る」で、デンマークの福祉や教育について語った。


≪高福祉高負担というが、高福祉高税というべきだ。税金は人々の連帯であり、貯金を国にしているようなもの」≫


千葉さんは1967年、25万円の片道切符と当時の持ち出し外貨500ドルを持って日本から北欧に向かい、デンマークで生活してきた。幸福と感じている人の比率が世界一高い国デンマークで、国民大学(国民高等学校とも訳される)日欧文化交流学院を作り、教育と福祉の現場にいる。

無料の教育は9年生までが義務制で、卒業時に初めて試験があるが、順位はつけない。1年生の前のゼロ年生も義務化され、卒業後も10年生の制度がある。

医療は妊娠した時から無料。65歳から受け取る国民年金は掛け金がない。市議会・県議会議員は給料がない。そんなデンマークからみた日本への提言を語った。

司会 日本記者クラブ企画委員 川村晃司(テレビ朝日)


PHPの「格差と貧困のないデンマーク」のホームページ

http://www.php.co.jp/books/detail.php?isbn=978-4-569-79242-2


千葉忠夫さんが理事長を務める日欧文化交流学院のホームページ

http://www.bogense-djcc.com/


会見リポート

福祉大国は1日にして成らず

伊藤 三郎 (元朝日新聞編集委員)

アンデルセン作「マッチ売りの少女」の舞台は、貧しかった160年前のデンマーク。この国がどうして「世界一幸福な国」に変身できたか。


著者は淡々と語った─福祉大国は1日にして成らず。国の大切な資源は子どもたち。その子どもたちに民主主義のいろは─自由・平等・博愛─ とは何かを、学校生活を通じて教える。テスト攻めでいじめることなく、伸び伸びと。そういう教育を礎として、老人、障害者らすべての国民が安心して暮らせる国はできた。


高福祉の国とはどんな国か。「そこに住んで学ぼう」と思い立った千葉氏が、コペンハーゲンを目指して東京を発ったのは26歳の時。福祉国家とは何か、を理解できるまで帰国せず─そう決意して、片道切符を手に。それから44年が経った。


「義務教育の9年が終わればほとんどの子どもが専門学校へ。大工は大工、シェフはシェフ、記者は記者になるための職業訓練を受けさせ、早く実社会へ送り込む。義務教育でせっかく基礎常識を身につけた子どもたちが、さらに高校に進んで微積分など難しい数学を学ぶなんて時間の無駄でしょう」


こうした合理主義、地に付いた個人主義こそ「高福祉・高負担」の国を可能にした。ただし、デンマークの人びとは高負担ではなく「高税」と受け止める。税金は連帯の証しでもあり、納めた税金は福祉の充実で納税者に返ってくるから、税金は「国家への貯金」と考えるのだという。


千葉さんのこんどの著作は、2年前の『世界一幸福な国デンマークの暮らし方』に続くもので、読むほどに日本の異常さが浮き彫りに。果てしなき受験戦争、形式主義の学歴社会、派遣社員と失業者の急増─ そこへ「東日本大震災」の追い討ち。


特効薬のないニッポン病に茫然自失の皆さん。漢方薬のような千葉さんのデンマーク“姉妹作”の精読をお勧めする。


ゲスト / Guest

  • 千葉忠夫 / Tadao CHIBA

    日本 / Japan

    著者 / Writer

研究テーマ:著者と語る 『格差と貧困のないデンマーク』

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