2011年04月11日 13:30 〜 14:30 10階ホール
研究会「中東民主化 シリア」 青山弘之 東京外国語大学大学院准教授

会見メモ

「中東民主化とシリア」のテーマで、シリアの政治に詳しい青山弘之さん(東京外語大)から話を聞いた。

いわゆるFacebook革命の影響がシリアにも波及しているが、政権打倒といったものにはなっていない。現アサド政権で改革をすすめてほしいとのいうのが、国民の意志のようだ。これは、アサド大統領が2000年に就任以来、改革の意志を示しており、それを妨げているのは彼のとりまきだと考えている人が多いからだと思う。

シリアの政治体制は、チュニジアやエジプトのような一党独裁ではない。権力は二重構造になっている。第一層は、内閣、人民議会、司法などでできており民主的な体裁をもつ。第二層は秘密警察、軍、大統領に近いビジネスマンなどで構成され、シリアを実質的に支配している。内閣総辞職があったが、これは第一層の実権のない人たちの首をすげ替えるものにすぎない。

司会 日本記者クラブ企画委員 脇祐三(日経新聞)

使用した資料

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/62c72b5d0e9cfccbd897b6b8f2f81cc4.pdf

青山弘之氏のホームページ

http://www.tufs.ac.jp/ts/personal/aljabal/


会見リポート

シリア 体制崩壊の可能性低い

片山 哲也 (時事通信外信部)

中東民主化の動きはアサド家父子2代にわたる独裁が続くシリアにも波及した。今後の展開についてゲストの青山弘之氏は、体制の崩壊といった劇的な結末を迎える可能性は現時点でそれほど高くないとの見通しを示した。もっとも、シリアはイスラエルと対峙する地域大国。混乱が長引けば周辺への影響も予想され、当面は目が離せそうにない。


青山氏の分析では、シリアでは政権転覆の潜在能力を持つ軍や治安・情報機関におけるバッシャール・アサド大統領の求心力はかなり強い。チュニジアやエジプトでは軍が為政者に距離を置き、最後には彼らに引導を渡し、政権崩壊を決定付けた。シリアの軍は幹部全員がアサド大統領に極めて近く、大統領の「私兵」としての性格が強い。したがって軍がアサド大統領を見限る可能性は低いというのが青山氏の見方だ。


反政府側を見ると、エジプトの「革命」で主役だった都市中間層に属する若者はシリアでは影が薄い。エジプトで事実上の最大野党として重要な役回りを演じたイスラム勢力のムスリム同胞団も、シリアでは国内拠点を持たない。アサド政権に改革を求めても、大統領の退陣を明確に求める声が少ないのもエジプトと異なる。むろん、エジプト政変が大方の専門家の予想を裏切るものだったことを考えると、シリアについても予断は禁物だ。


父の後を継いで2000年に弱冠34歳で元首になったアサド大統領は「変化」を強調しながら、実質を伴う改革を行わずじまいだった。中東民主化の「津波」を前にしてなお、政権の対応は真剣さを欠いていると言わざるを得ない。


仮に現体制が崩壊すればどうなるか。民族・宗派の入り混じるシリアのことだ。かつてのレバノンやフセイン政権崩壊後のイラクのように内戦状態となり、中東の不安定の震源になりかねないと青山氏は警告した。


ゲスト / Guest

  • 青山弘之 / Hiroyuki AOYAMA

    日本 / Japan

    東京外国語大学大学院准教授 / Asst. Professor, Tokyo Univ. of Foreign Studies

研究テーマ:中東民主化 シリア

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