2011年04月19日 16:00 〜 17:30 宴会場(9階)
シリーズ企画「3.11大震災」 賀来満夫 東北大学教授、松本哲哉 東京医大教授

会見メモ

シリーズ企画「3.11大震災」で日本感染症学会の吉田正樹(東京慈恵会医科大学)、賀来満夫(東北大学教授)、松本哲哉(東北­大学教授)らが、「東日本大震災における感染症対策」や「災害と感染症―日本感染症学会としての対応」について述べた。

賀来満夫さん(東北大学)は「東北大病院では水道が止まって手洗いができず、ガスが止まって機器の滅菌ができなくなった。緊急手術以外は停止するしかなかった。医療システムそのものが崩壊したのは初めての体験だった」と述べた。大学チームが避難所を回りリスク評価を行い、対処マニュアルを作った。避難所では第一段階はインフルエンザ、ノロウィルスなどヒト-ヒト伝播の外因性感染だったが、第二段階は体力や免疫機能低下による肺炎など内因性感染がみられるようになった。また松本哲哉さん(東京医科大学)は、「インフルエンザなどの大流行が起こらなかったことは不幸中の幸いだった。発生が12月ないし1月だったら、もっと患者が発生していたかもしれない」と述べ、これから夏に向かって食中毒の発生を懸念しているという。

また二人は、課題として、すでに起こっている問題や病気があるかもしれないのに、避難所の被災者が近くの人や医療関係者にいえない状況があり、衛生管理や患者を見つけるシステムを構築する必要を訴えた。

司会 日本記者クラブ企画委員 宮田一雄 (産経新聞)

日本感染症学会ホームページ
http://www.kansensho.or.jp/index.htm


会見リポート

被災地の感染症の脅威と対応策

木村 彰 (日本経済新聞社会部編集委員)

日本感染症学会の3人は、東日本大震災で避難生活を送る住民が感染症の脅威にさらされている実態と、対応策の現状を語った。

 

賀来氏は、「多くの人が狭い空間で生活する避難所では、寒さや栄養状態の悪化などによる体力低下も重なって感染症のリスクが高まり、特に、インフルエンザや気管支炎などの呼吸器感染症と、食中毒や感染性胃腸炎の発生が懸念される」と指摘。「高齢者を中心に、肺炎球菌やレジオネラ菌、口腔内の菌などによる肺炎患者が増えている」と訴えた。そのうえで、東北大学病院の地域診療支援チームが宮城県の大規模避難所で発生したインフルエンザの集団発生をアルコール消毒液の使用や発熱外来の開設、抗インフルエンザ薬の予防投与などを通じて短期間で終息させた経験を報告した。

 

一方、松本氏は、学会が震災後の感染症に関する専門委員会を立ち上げ、①感染症に関する情報提供②被災地の医師へのアドバイス③感染症専門家のネットワーク形成④災害時の感染対策マニュアル作成⑤感染症の人材養成──などに取り組んでいることを紹介。「今回、被災地で起きた感染症の情報や経験をまとめ、息の長い支援のあり方を探るとともに、今後の災害対応につなげていきたい」と語った。

 

吉田氏は多くの医学系学会が震災後、総会や学術集会を中止する中、日本感染症学会が開催する理由を「被災地に役立つ感染症対策をしっかり議論するため」と説明した。地域を越えたネットワークを組んで奮闘する「感染症のプロ」たちに、心からエールを送りたい。


ゲスト / Guest

  • 吉田正樹 東京慈恵会医科大学、賀来満夫 東北大学教授(感染制御・検査診断学)、松本哲哉 東京医大教授(微生物学) / Masaki YOSHIDA The Jikei University School of Medicine, Mitsuo Kaku, M.D., Ph.D., Tohoku University, Tetsuya Matsumoto, M.D Tokyo Medical University

    日本 / Japan

研究テーマ:シリーズ企画「3.11大震災」

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