2011年04月18日 15:00 〜 16:30 10階ホール
研究会「TPP」②鈴木宣弘 東京大学大学院教授

会見メモ

農林水産省出身の鈴木宣弘・東大教授が研究会「TPP」でTPP参加反対の立場から話した。


≪「開国、というが日本の農業の市場開放度はすでに、非常に高い。食料の6割を海外に依存しており、日本人はもはや「国産」とはいえないほど開放されている」≫

鈴木教授は東日本大震災とTPPについて、米国は「大震災の上に、TPPで追い打ちをかけるようなことはできない」という立場をとっていると述べ、TPPが米国には利益だが日本には迷惑だと米国はわかっている、と指摘した。震災を契機に日本は有事に強い、持続的に支えあう社会をめざし、コストがかかっても食料を身近で確保する重要性を認識すべきだと訴えた。被災地に追い打ちをかけるTPP推進を白紙に戻すよう求めた。

また、「日本ほど開放された食料市場はない」と述べ、農業分野で最後のとりでとして守ってきた措置をTPPによって一挙になくすことはできない、と強調した。農水省勤務時代、自由貿易協定交渉にかかわった経験から、「農業が自由貿易の障害となったということはない。韓国との交渉で対立したのは製造業であり、農業のせいで中断したのではない」と振り返った。

「TPPで日本は貧乏になる」と断言し、中国、韓国、アセアンとの自由貿易経済圏の成立を急ぐことが日本経済にとって大事だ、と述べた。


司会 日本記者クラブ企画委員 篠原昇司 (日本経済新聞)


東京大学ホームページの鈴木宣弘教授紹介

http://www.ga.a.u-tokyo.ac.jp/p_suzuki.html


使用した資料「TPPと国益」

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/4e4c0a5049f4c522228fa9b28a3682e1.pdf

使用した資料「机上の復興ビジョンの前に」

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/daea9f107675779d7aa8c37306c7d77d.pdf


会見リポート

「農」の側からのTPP批判

平田 育夫 (日本経済新聞コラムニスト)

東日本大震災もあって政府はTPP(環太平洋経済連携協定)参加に向けた検討を先送りした。それでも今秋に予想される交渉妥結に向けて日本も参加を表明すべし、という声が政府内にある。


そうした動きをけん制し「議論が尽くされていない」と農水省出身の教授はTPP参加に反対する。


教授があげる反対理由は実にさまざまだ。例外措置のない関税撤廃で食料自給率は急低下する。農家への所得補償には4兆円規模の新たな財源を要し、不可能に近い。米国は強国だから、自国の酪農製品などを自由化の例外にするよう求めてくるかもしれないが、日本にはそこまでの外交力がない。


農業は国内総生産(GDP)の1・5%を占めるにすぎないが、農産物の加工、輸送、販売、飲食店などを含めれば、経済への貢献は大きい。その農業を傷めてよいのか。


さらには、砂糖の関税をゼロにすれば、南の離島で砂糖を耕作していた人が島を離れ、領土問題に影響を及ぼす恐れもある──とも。


「米国が中心のTPPよりも日本に利益があるのはアジア諸国との連携だ」とみる教授は、東アジアでの広域経済連携を呼びかける。この地域での貿易の自由化と、各国の農業が共存できる仕組みを、欧州の共通農業政策に倣って考えるべしという主張である。


米国は「アジア経済圏」の成立を阻止するためTPPを持ち出したのであり、それに乗るのは日本の長期的利益には合わない──。ここが鈴木理論の核心部分のようだ。


TPPは確かに唐突感があるものの、米国は大事な市場。TPP参加を機に、農業のほか金融、法律、建築など閉鎖的な分野を開放する政策を進めなければ、競争力向上のチャンスを逸するのではないか。そうした思いをぬぐいきれない。


ゲスト / Guest

  • 鈴木宣弘 / Nobuhiro SUZUKI

    日本 / Japan

    東京大学大学院教授 / Professor, University of Tokyo

研究テーマ:TPP

研究会回数:0

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