2011年04月07日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
研究会「市民社会と公益活動」 山内直人 日本NPO学会会長

会見メモ

「市民社会と寄付・ボランティア 震災復興に貢献できるか」のテーマで山内直人・阪大教授が寄付の仕組みと大震災について話した。


≪「被災地が複数の県に広がっているので、義援金の配分委員会はまだできていない。しかし、公平にこだわると、被災者にとって支援が必要な時期に配分できない。とりあえず一律に配分する方法も考えるべきだ」≫

東日本大震災では、個人や企業から多額の義援金と支援金が集まっている。義援金は被災者に配分されるが配分委員会がまだ発足していないため、被災者には届いていない。支援金は被災地で活動するNGOを支援するため、使われる。中央共同募金会は両方を募集しており、義援金180億円に対し、支援金8億円が集まった。阪神大震災では寄付のほとんどが義援金でNPO支援は集まらなかったと振り返り、被災地のNPOを支援する受け皿作りを評価した。

2009年には、15歳以上人口の3分の2にあたる3766万人が寄付し、個人と法人をあわせると推定1兆円が集まった。またボランティア活動に参加したのは15歳以上人口の36%にあたる3975万人で総活動時間は59億時間、金銭換算すいていは10兆円を超えたという。税制改正法案では寄付金の税額控除制度やプランド・ギビング信託(特定寄付信託)制度が導入される。

山内教授はこうした現状を説明し①寄付文化を定着させる必要性②時間寄付としてのボランティアの重要性③震災復興支援のために税制改正法案の成立――を課題としてあげた。


司会 日本記者クラブ企画委員 川村晃司(テレビ朝日)


山内直人研究室のホームページ

http://www2.osipp.osaka-u.ac.jp/~yamauchi/


使用した資料

http://www.jnpc.or.jp/files/2011/04/3885ad6827f23dd87706fd212327a655.pdf


会見リポート

「寄付の文化」と現実とのズレ

山路 憲夫 (元毎日新聞論説委員)

東日本大震災がもたらした未曾有の被害に支援の輪が広がりつつある。この輪をさらに広げるためにはどうすべきか。山内教授は寄付とボランティアという観点から、その現状と課題を分析してくれた。


寄付の文化は欧米に比べ明らかに希薄だ。日本の年間(2009年)の個人寄付額は5455億円、アメリカの約40分の1。名目GDP比でみると、日本0・12%に対し、アメリカ1・60%、イギリス0・68%という。宗教をバックボーンにした価値観の違いではあろうが、それにしてもいかにも少ない。


ボランティア活動の規模(09年)でみると、活動を実施した推定人口は3975万人、金銭に換算すると10・5兆円、対名目GDP比率で2・2%、数字上はアメリカ、イギリスとほぼ同水準というが、果たしてそうだろうか。


阪神・淡路大震災をきっかけにできた特定非営利活動促進法(NPO法)により、NPOは全国に広がり、4万を超えたが、06年以降新規の設立数が減り続けているのも気になる。


阪神・淡路大震災の時には1800億円もの義援金も集まり、全国から多くのボランティアも駆け付けた。今回はそれを上回る義援金、さらにNPOへの支援金も集まりつつあるのは確かに心強いが、一過性に終わらないか。そうさせないために寄付への税制優遇を強化し、寄付金が集まる仕組みづくりと同時に「寄付の習慣」を定着させるべき、と山内教授は締めくくったが、もどかしさは残る。


今回の震災だけではなく、加速する少子高齢社会を乗り切るためにも、このうねりをさらに高めて、「支え合い」社会を作り上げるきっかけとしたいが、10兆円を超えるともいわれる震災復興に必要な費用は寄付だけでは到底まかなえない。


「あるべき論」だけでは解決にはなり難い現実がある。必要な費用はきちんと国民に負担を求める時期に来ている、とあらためて感じた。



ゲスト / Guest

  • 山内直人 / Naoto YAMAUCHI

    日本 / Japan

    日本NPO学会会長 / Professor, Osaka University

研究テーマ:市民社会と公益活動

研究会回数:0

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