2011年03月03日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
研究会「大使に聞く フィリピン」桂誠 駐フィリピン大使

会見メモ

一時帰国している桂誠フィリピン大使が「大使に聞く」シリーズで最近のフィリピン情勢について話し、質問に答えた。


≪「輸出主導と堅調な消費による内需で経済は好調だ。その消費はGDPの1割にあたる海外からの送金に支えられている面がある」≫

桂大使は2010年6月就任したベニグノ・アキノ大統領について、アロヨ前政権の腐敗や権力固執に対する批判が強まる中、アキノ家の清廉なイメージが当選につながり、高い支持率を保っていると述べた。経済は好調で、2010年の経済成長率は7.3%で1975年以降で最も高く、1人当たりGDPも2011ドルと2000ドルを超えた。人口の1割の850万人が海外に出稼ぎに出ており、本国への送金は187億ドル(2010年)でGDPの1割に相当する。こうした海外からの送金に支えられた消費が経済成長にもつながっていると説明した。

質疑応答では、ミンダナオの和平交渉がイスラム教徒の自治区域の線引きや自治のレベルをめぐり時間がかかっていると指摘した。またアキノ家を含め、中国系の人々が多く、富豪の9割は華僑といわれることも紹介。反中国系の動きがみられない理由のひとつとして、中国系がカトリックを信仰しフィリピン社会に同化していることをあげた。


司会 日本記者クラブ企画委員 川村晃司(テレビ朝日)


使用した資料
http://www.jnpc.or.jp/files/2011/03/423ea9bcad344adf7f73dae3023aa35a.pdf


在フィリピン日本大使館のホームページ

http://www.ph.emb-japan.go.jp


会見リポート

「腐敗一掃」掲げる大統領

後藤 卓彦 (日本経済新聞対外情報発信室長付)

エジプトのムバラク政権が崩壊し、カダフィ大佐によるリビアの支配体制も崩壊の危機にさらされているなか、25年前に無血革命で民主化を成し遂げたフィリピンから桂大使が一時帰国し情勢を語った。


奇しくも、フィリピンでは昨年8月に、ベニグノ・アキノⅢ世が大統領に就任したばかり。1986年2月の「ピープルパワー革命」で政権をとったコラソン・アキノ大統領の長男だ。会場からは中東の民主化ドミノがアジアに与える影響についての質問も出たが、大使は「独裁政権が倒れるというのはフィリピンが25年前にすでに経験したこと。フィリピン国民はむしろ優越感を持って今の事態をみている」と分析する。


貧困はフィリピンが抱える根深い問題だが、その対策には「成長によって経済のパイを大きくし、全体を富ますことが正攻法ではないか」と語る。その意味では、昨年の同国経済は35年ぶりの高成長ということで、アキノ政権には追い風が吹いているといえそうだ。中東の政変が25年前へのノスタルジーを喚起しているとすれば、現大統領の政権基盤はさらに強まるとも読める。


とはいえ行政機構の末端にまで染みついた汚職体質が今もなお大きな問題だ。アキノ大統領が「腐敗一掃」を最優先課題に掲げるのも、この問題が国を揺るがす恐れを承知しているからだろう。その意味では、まだまだ中東の情勢に対し「高みの見物」ではいられないのも事実だ。


会見ではフィリピンと、中国との関係についての質問も相次いだ。昨年の民主化活動家、劉暁波氏のノーベル平和賞受賞式への代表出席を拒否したフィリピン政府。南沙(スプラトリー)諸島の領有権問題を抱えつつも、中国政府の立場に同調せざるを得なかった背景には、中国内で働く出稼ぎ労働者の存在があるという。台頭する大国との距離のとり方の難しさをあらためて認識した。


ゲスト / Guest

  • 桂誠 / Makoto KATSURA

    日本 / Japan

    駐フィリピン大使 / Ambassador to Philippines

研究テーマ:大使に聞く フィリピン

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