2011年02月10日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
研究会エジプト情勢 鈴木恵美・中東調査会客員研究員、保坂修司・日本エネルギー経済研究所研究理事、脇祐三・日本経済新聞論説副委員長

会見メモ

緊迫するエジプト情勢について、鈴木恵美・早稲田大学イスラーム地域研究機構研究院准教授▽保坂修司・日本エネルギー経済研究所中東研究センター副センター長・研究理事▽脇祐三・日本経済新聞論説副委員長の3人が話し、反ムバラクデモの背景や今後の展開を語った。


≪「タハリール広場の反ムバラクデモにラクダに乗ったムバラク支持派が突っ込んだ。ラクダの扱いが上手な観光業者で、今回のデモで傷ついている。一方、デモに参加したのはネットを利用できる中間層で、両者は別の階層に属している」(保坂修司さん)≫

まず、司会も兼ねる脇祐三さんが、子どもが多い人口構成や若者の高い失業率、食料品の値上がりなど社会・経済面の背景を説明した。次に保坂修司さんがインターネットの役割をとりあげ、中東におけるフェイスブックの利用者は1500万人で新聞(アラビア語・英語・仏語)発行部数の1400万部より多いことなどネットの広がりを解説した。フェイスブックと反ムバラクデモの関係について、「トリガー(引き金)としての役割で、人々は衛星テレビや携帯端末のSMS(ショートメッセージサービス)を利用したのではないか」と語った。また、当局に拘束されたグーグルの地域責任者、ワ―エル・ゴネイム氏が釈放後、ヒーローとなるなど「シンボルとなる人が次々に現れ、新しい物語が動き出す」構図を指摘し、「チュニジアやエジプト以外の国では、まだシンボルとなる人は生まれていない」と述べた。

エジプト政治が専門の鈴木恵美さんは、中東和平への影響をテーマに話した。シナイ半島で2004年から06年にかけ、エジプトの記念日に爆破テロが起こったことをとりあげた。北部シナイ半島で警察・与党と住民の大規模な衝突が続き、住民の政府への恨みやイスラム武装勢力の浸透を指摘した。さらに、スレイマン副大統領が諜報庁長官としてパレスチナのファタハとハマスの仲裁に重要な役割を果たしてきたことを説明し、今後、シナイ半島情勢がさらに不安定となりイスラエルにとって安全保障の危機となる可能性に触れた。鈴木さんはまた、エジプトの軍の立場について「国家の体制を維持し、不名誉なムバラク退陣は避けたいので、揺さぶりをかけているのではないか」と述べた。イスラム同胞団の役割について保坂さんが「選挙でそんなに強いのか」と尋ね、鈴木さんは「農村に基盤を持っている。議会選挙になれば3分の1ぐらいはとるのではないか」と説明した。


会見リポート

中東ドミノはどこまで波及

長谷川 健司 (共同通信外信部次長)

長期独裁政権が当たり前だった中東。チュニジアで始まった反政府デモはベンアリ政権を倒し、大国エジプトのムバラク政権も崩壊した。「革命ドミノ」がどこまで波及するのか、関心は極めて高い。


大規模デモ発生の背景について、脇祐三氏は「日本と対照的な多子若齢化の社会」を挙げた。過去40年でアラブ諸国の人口は3倍に激増した。労働市場に加わる人が退職者より多く、中東・北アフリカの若年失業率は20%以上で世界トップ。


かつて小麦や砂糖は手厚い補助金で格安だったが、グローバリズムの中で削減され、特に貧困層の不満が蓄積していたという。


抗議行動がかつてない速さで広がった理由に挙げられるのが、インターネットのフェイスブックやツイッターの利用だ。中東ネット事情に詳しい保坂修司氏は、チュニジアやエジプトはネットを経済活動の柱として比較的早期に導入しており、反政府デモで「重要な役割を果たした」と指摘した。ただ、国民のネット利用率はまだ2、3割で、衛星テレビの報道や携帯電話メッセージとの相乗効果があったという。


エジプト政変で注目されるのが、反米、反イスラエルに政策転換するかどうか。鈴木恵美氏は組織力があるイスラム主義のムスリム同胞団について「公正な選挙を2、3回やれば、黙っていても自派系の大統領が出せる」と分析。イラン型の政治体制を目指す可能性も指摘した。


保坂氏は、自由選挙で多くの政党が競えば同胞団はそれほど強くないとの見方。「中東ドミノ」については、各国でネット環境、生活水準などに違いがあり、エジプトなどの先例は単純に当てはまらないと述べた。


ゲスト / Guest

  • 鈴木恵美・中東調査会客員研究員、保坂修司・日本エネルギー経済研究所研究理事、脇祐三・日本経済新聞論説副委員長

    日本 / Japan

    / Emi SUZUKI, Associate Professor, Waseda University Shuji HOSAKA, Senior Research Fellow, JIME Center, The Institute of Energy Economics, Japan Yuzo WAKI, Deputy Chief Editorial Writer, Nihon Keizai Shimbun

研究テーマ:エジプト情勢

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