2011年02月08日 12:00 〜 14:00 10階ホール
稲盛和夫 日本航空会長兼CEO 昼食会

会見メモ

会社更生手続きが進む日本航空の稲盛和夫会長が昼食会で、会長就任から1年の取り組みを話し、質問に答えた。


≪「会長に就任した時、日本航空社内では『倒産』の意識が非常に希薄だった。どんなことがあっても再生するんだという強い意識を持つよう幹部社員に話した」≫


稲盛和夫氏は、日本航空会長に就任したことについて、「『晩節を汚すのでは』と忠告する友人もいたが、日本経済の復活と従業員を守るため引き受けた」と振り返った。会長として社員の意識改革から取り組んだと説明。「JALには倒産の実感があまりなかった。社員の危機感が足らなかった。リーダーの強い願望と使命感がなければ更生はできないと幹部社員と議論した」「利益を出すことに罪悪感というか、やましいという感覚があった。安全第一はわかるが、健全な収益を上げる前提があって初めて安全は守られる、と話した」「航空産業は究極のサービス産業だ。キャビンアテンダントにはおもてなしの心をもち、機長には機長として心からお客様にあいさつしてほしい、と呼びかけた」と述べた。昨年4月から同12月までの営業利益は1586億円で更生計画を上回り「すばらしい成績だ」と評価した。今年4月からは企業再生支援機構が全株を持つ株式会社としてスタートするが、「企業再生支援機構は来年中に株式を上場できるようにしたいと考えているだろう。企業再生のめどがつけば私も身を引く」と述べた。

日本経済の低迷について「リーダーたちの強烈な願望が欠落していたのではないか。この20数年、眠っていたのではないか。問題は経営者の意欲だ。このままでは日本はじりじりと自滅する」と危機感を示した。また政治の現状には「まつりごとを執り行うリーダーは私心を捨て無私の精神でなければならない」「日本に二大政党制が定着すべきだと考えてきたし、民主党の政権交代は良かったと思った。だが、現在の体たらくには落胆している」と失望を隠さなかった。


司会 日本記者クラブ副理事長 宇治敏彦(東京新聞)

代表質問 日本記者クラブ企画委員 小此木潔(朝日新聞)


日本航空ホームページの企業情報サイト

http://www.jal.com/ja/

稲盛氏が塾長を務める企業家の経営塾「盛和塾」のホームページ

http://www.seiwajyuku.gr.jp/


会見リポート

練達の事業家 最後の大勝負か

大鹿 靖明 (朝日新聞出向社員(アエラ編集部))

日本にとって最も希少な資源は、原油でもレアメタルでもない。「事業家」である。事業家とは前例踏襲や横並びとは無縁で、リスクをとって挑戦する気概がなければならない。しょせん社内政治の勝者にすぎない保身ばかりのサラリーマン経営者(新聞社に多い)とは、決定的に異なる資質である。


その点、日本航空(JAL)の稲盛和夫会長はソフトバンクの孫正義社長とともに、最高の事業家の一人だろう。京セラを国際優良企業に育て、KDDIの生みの親でもある。自民党一辺倒だった財界にあって、早くから民主党の後見人を務めてきた。そして倒産したJAL再建という「火中の栗」も拾っている。


その稲盛氏の発言は、実に意味深長だった。過日明らかになった新日本製鉄と住友金属工業の経営統合構想について「大変驚くとともに我が意を得たり」と切り出し、大胆な業界再編が企業の体力を強め、ひいては日本の国力を高める、と言及したのである。そのためには経営者が「己を捨てて、小異を捨てて大同につく」ことが欠かせない、と説いた。


これは、再建中のJALと全日本空輸(ANA)との統合の可能性を示唆したものと受け取られた。真意をただそうと二、三の質問があったが、稲盛氏はJALとANAの2社体制を堅持する公式見解を踏襲。だが、「今後ロー・コスト・キャリアが乗り込み、内外で競争が高まれば、それがいつまで維持できるか。時代の流れによって変化していくものと思っています」と、これまた思わせぶりな発言をした。


観測気球か、あるいはただの一般論の開陳か、その真意は読みとりにくい。しかし練達の事業家のことである。80歳で引退するという稲盛氏の最後の大勝負は案外、世紀の大合併かもしれない。


ゲスト / Guest

  • 稲盛和夫 / Dr. Kazuo INAMORI

    日本 / Japan

    日本航空会長兼CEO / Chairman of the Board of Directors, Japan Airlines

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