2011年02月01日 13:00 〜 14:30 10階ホール
陳婉瑩 香港大学ニュースメディア研究センター所長 研究会

会見メモ

香港大学のジャーナリズムスクールを設立した陳婉瑩教授が、シリーズ研究会「世界の新聞・メディア」⑫で、中国のメディア状況について話した。


≪「エジプトの反政府デモについて『民主主義にとって良くない』という政府関係者のコメントを中国メディアは伝えた。中国ではスピンをかけたこういう報道を信じる人と疑う人がいて、読み方はいろいろだ」≫


陳教授はニューヨークデイリーニューズの記者を務めたあと、香港に帰り、ジャーナリズムスクールを率いている。まず、中国のミニブログのサイトで「埃及(エジプト)」を検索しても「法律によって表示できない」となることを説明した。検閲され職を奪われる記者やブロガ―を次々に紹介した。一方、新華社、CCTV、チャイナ・デイリーなど国営メディアの海外発展や投資が広がっている現状も説明した。ネットでは市民が事件現場の写真を投稿するなど市民が作るコンテンツが多数を占めるようになった、という。

中国メディアの傾向を「自由か統制か」「計画経済か市場経済か」の図式にあてはめて説明した。30年前には統制・計画経済の共産党メディアだけが存在していた。党メディアは市場経済に向かい、さらに、自由・市場経済派の流れが広がってきた。「国家のコントロール」「国家、独立ジャーナリスト、市民の競争という変化」「混沌とした状況」と表現した。

司会 日本記者クラブ企画委員 坂東賢治(毎日新聞)

通訳 池田薫(サイマル・インターナショナル)


香港大学ニュースメディア研究センターのホームページ

http://jmsc.hku.hk/


会見リポート

規制と変化 カオスの中国メディア

工藤 哲 (毎日新聞外信部)

ニューヨークデイリー・ニューズの記者として活動し、米国での研究生活を経て中国で教べんをとる立場から、中国メディアの近年の変化を解き明かした。中国側の視点に偏らず、写真や図表を使って事実を示す説明には説得力があった。

日本では中国の影響力拡大志向は軍事、経済面が目につきがちだが、メディアも例外ではない。陳氏によると、中国当局は新華社や中国中央テレビ(CCTV)などの中国主要メディアの海外進出を、投資ファンドで集めた資金などをもとに支援している。新華社は自前でテレビのネットワークを持つようになり、CCTVの「多言語化」も進んだ。

また胡錦濤政権は09年10月、世界の主要メディアの幹部を集めたサミットを北京で開催。中国の姿勢が世界的に重視されていることを印象づけた。一方でガーナなどアフリカ諸国などから記者を招き、研修の場も提供している。狙いについて陳氏は「ソフトパワーを強化し、国際的な議題が設定される時にそれなりの発言権を持つため」と解説した。

だが、中国メディアの報道には依然課題も多い。所得分配や株、不動産や災害報道に加え、エジプト情勢も規制されていたという。陳氏は「来年の党大会に向けてメディア操作は強まる傾向にある」と予想する。

ただ「中国のジャーナリストたちの中にはいい働きがあることも事実」だ。陳氏は四川大地震の現場を伝えたCCTVの映像や、ミニブログなどで当局の不正が暴露された数々の事例を紹介。「コントロールは続くが、多くの変化も起きている。市民らが伝えるニュースも増えており、カオス(混とん)状態になる」と展望を語った。

中国メディアの動きは、中国社会の変化の兆しを示すバロメーターでもあり、目が離せない。


ゲスト / Guest

  • 陳婉瑩 / Chan Yuen-ying

    中国 / China

    香港大学ニュースメディア研究センター所長 / Director & Professor, Journalism and Media Studies Centre, The University of HongKong

研究テーマ:世界の新聞・メディア

研究会回数:0

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