2011年01月21日 15:00 〜 16:30 10階ホール
福井健策 弁護士 研究会

会見メモ

著作権問題に詳しい福井健策弁護士がシリーズ研究会「世界の新聞・メディア」⑪で「ディジタル時代のジャーナリズムと著作権」をテーマに話し、質問に答えた。


≪「尖閣ビデオ流出事件のユーチューブ映像を新聞・テレビが伝えたことは、著作権法の『時事の事件の報道のための利用』にあたり許される、と考える」≫


福井さんは、まず著作権の考え方について整理し、著作物から除かれる情報として①ありふれた表現②事実・データ③アイディア④題号・名称などをあげた。「複製権」「公衆送信権」など著作権によって禁止される権利や、「私的使用のための複製」「引用」といった例外的に許可がいらない場合などを説明した。その上で、ファイル交換ソフト、最高裁で判決が出たばかりの番組転送サービス、動画投稿サイト、書籍を裁断してスキャンし電子化する自炊代行サービスといったディジタル・ネットの最新状況と著作権の関係をとりあげた。自分で買った本を自炊する場合は「私的複製」で認められるとしても、複製の代行である自炊代行サービスがどこまで許されるか、と問題点をあげた。一方には、権利侵害が横行しクリエイタ―の創作物のフリーライドになっていると批判され、他方では、情報が豊富になり情報の民主化やコスト減につながると擁護される現状を解説した。

さらに尖閣ビデオ流出事件をとりあげ、ユーチューブの流出映像をテレビや新聞がそのまま伝えたことを、著作権の視点から考えた。まず、海上保安庁職員が職務で記録した映像であり、著作物にあたるとすれば、国が著作者となる。著作物の場合、テレビで放映し新聞で伝えると、公衆送信権や複製権の侵害となることもありうる。「例外的に許可は不要だ」と主張するには「引用」にあたると説明する方法がありうる。ただし、引用の場合、①引用するのは公表された作品②他人の著作部分と引用者の著作との明瞭な区別③引用者がメインで引用部分は10%程度という主従関係④引用の必然性・関連性⑤改変は許されない⑥出典の明示――といった条件がある、と説明。権利者(この場合は国)の意思によって公表されたのか、など問題点を指摘した。しかし、例外規定のひとつである「時事の事件の報道のための利用」を適用すれば、ユーチューブでアップされたこと自体がニュースだから「事件を構成する著作物」とみなされ、利用は許される、との見方を示した。

ただ、ある事件をたまたま第三者がおさめた映像の場合、映像が事件そのものといえないなら「事件を構成する」とみなすのは難しい。また、メディア会社がアーカイブで古い映像を販売する場合、すでに時事性が失われ、報道より商用目的となると「報道利用」の例外規定を主張するのも難しい、など報道と著作権の関係の課題を列挙した。


司会 日本記者クラブ企画委員 瀬川至朗


骨董通り法律事務所(福井健策さんがパートナー)のホームページ

http://www.kottolaw.com/

配付資料
http://www.jnpc.or.jp/files/2011/01/856e88046f46c8f7cc47db4b748daf6d.pdf




会見リポート

尖閣ビデオと著作権

臺 宏士 (毎日新聞社会部)

著作権法に詳しい福井健策弁護士が「デジタル時代のジャーナリズムと著作権」をテーマに講演した。

福井弁護士は、昨年9月に沖縄・尖閣諸島沖で起きた中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突した様子を撮影したビデオ映像が同11月に、海上保安官によって動画投稿サイト「ユーチューブ」にアップロードされた事件を取り上げ、「国家公務員法違反だけでなく著作権侵害にも当たるのではないかという論争も生まれた」と指摘した。

当時、▽だれの著作物なのか▽事実を撮った映像は著作物に当たるのか──などが論点になったという。福井弁護士は「国の職員が職務として行った職務著作で、国が著作者になり得る。(職員は)撮りやすい形での撮影を心がけているので(創作性があり)、著作物になる」との見解を述べた。

また、テレビや新聞が尖閣ビデオ映像の内容を報じることが著作権(公衆送信権、複製権など)を侵害するかどうかについても取り上げた。

著作権法41条は、時事の事件の報道のための利用を認めていることを根拠に、福井弁護士は「尖閣ビデオがユーチューブにアップロードされたことは事件であり、著作権法上は許される利用だと思う」と述べた。

内部告発サイト「ウィキリークス」が公開した公文書にも著作権の問題が生じるが、流出自体が事件性を持つため同様に事件報道に伴う利用にあたるという。

出席者からは「尖閣ビデオ映像はアーカイブ利用できるのか」との質問があった。福井弁護士は「時事性は失われている商用データベース(DB)では41条は使えない。同じことは報道写真にも言え、許諾を取らないと利用は難しい」と指摘。映像、写真などの著作物の取り扱いについて、「将来のアーカイブのために、使用できるかできないかの二つの視点を持って行わなければならない」と提言した。

ゲスト / Guest

  • 福井健策 / Kensaku FUKUI

    日本 / Japan

    弁護士 / Attorney-at-Law

研究テーマ:世界の新聞・メディア

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