2011年01月14日 15:00 〜 16:30 10階ホール
関志雄 野村資本市場研究所シニアフェロー 研究会

会見メモ

関志雄氏(野村資本市場研究所)がシリーズ研究会「2011年経済見通し」で中国経済を展望し、経済成長率とインフレ率の相関関係、不動産バブル、人民元切り上げ、日中経済の補完について語った。


≪「共産党大会の2012年は経済がピークになる」≫

関氏は、成長率が1%上がると3四半期後に物価は1%上がるという風に、中国の成長率とインフレ率は相関関係がある、と説明。スタグフレーション・後退・回復・過熱の4段階の景気循環を成長率とインフレ率で解説した。昨年は成長率もインフレ率も平均より高い景気過熱期で、インフレがいつまで続くか懸念する声もあるが、「これからスタグフレーション(成長率が低くインフレ率が高い)に入る。2011年は調整期でありソフトランディングに向かっている。2012年には回復する」と分析した。2012年は5年に一度の共産党大会が開催されるが、「1981年以降の党大会の年にはいつも成長率が平均を上回る。党幹部の人事異動の年であり、担当している地方の経済成長によって評価されるからだろう」と指摘した。米国の大統領選挙の年も成長率が高くなるため「2012年は米中が経済のピークを同時に迎える」と予測した。

不動産バブルでは地方政府融資プラットフォームの問題点を重視し、人民元に関してはニクソンショックの日本との類似点を取り上げた。日中の経済関係では、中国の乳児死亡率や一人当たり電力消費量などの経済指標は日本の40年前に相当し、先進国と途上国として補完関係にあることを強調した。中国が付加価値の低いローテク製品輸出に強い一方、日本はハイテク製品輸出で優位にあると指摘し「日本は中国と競合する衰退産業に投資しても勝ち目はない。付加価値の高いハイテクや研究開発・技術をもっと強くすべきだ」と述べた。また、自動車産業が中国で現地生産・販売するのは、中国の関税が高いからであり、関税がなくなれば日本で生産した自動車を輸出できると説明。「日中FTAこそ、空洞化対策であり、有効な成長戦略だ。TPPも中国が入らないなら意味はない」と話した。

司会 日本記者クラブ企画委員 篠原昇司(日本経済新聞)


野村資本市場研究所のホームページ

http://www.nicmr.com/nicmr/index.html

下記、会見詳録の末尾に、会見で使用した資料があります。 


会見リポート

中国は「政治の年」への調整期に

菅野 幹雄 (日本経済新聞編集委員兼論説委員)

日本を抜き世界2位となる中国経済を、香港出身の論客が数字を交えて理路整然と解説した。2010年の実質経済成長率は「10.2ないし10.3%」。6日後に中国が発表した「10.3%」を言い当てた。

物価高騰を心配する声が専門家の間でも支配的だが、「景気は悪化の方向。インフレ率は下がるほうに賭けたい」ときっぱり。11年は調整期だが、中国が共産党大会を開く12年は米大統領選も重なった「政治的景気循環」の追い風が吹くと期待する。

不動産バブル、特に地方政府がせっせと作った融資プラットフォーム向け貸し出しの焦げ付きが「最大のリスク」とみる。ドル下落の圧力と相まって、中国は「年率5~6%の人民元切り上げを容認するだろう」と読む。

巨竜を追う立場に転じた日本の活路は?「勝ち目のない衰退産業はあきらめよ」。日中自由貿易協定で中国の輸入関税を下げ、ハイテク品の輸出で国内雇用を守るしかないと説く。「痛みの改革」こそ本物の成長戦略という主張には同感だが、残念ながら、実現は望み薄か。

ゲスト / Guest

  • 関志雄 / KWAN Chi Hung

    中国 / China

    野村資本市場研究所シニアフェロー / Senior Fellow、 Nomura Institute of Capital Markets Research

研究テーマ:2011年経済見通し

研究会回数:0

ページのTOPへ