2010年11月17日 14:00 〜 15:30 10階ホール
カレル・ヴァン・ウォルフレン・ジャーナリスト「日米中」15

会見メモ

「アメリカとともに沈みゆく自由世界 America's Tragedy and the Blind Free World」(徳間書房)を刊行したカレル・ヴァン・ウォルフレン氏が、研究会「日米中」の⑮で、近年のアメリカ情勢と日米同盟について語った。


「冷戦が終わったのだから、ソ連共産圏に対抗する価値観としての『自由世界』はすでに存在しない」と冒頭から「自由な国アメリカ」との幻想から目覚めるべきだと発言。

アメリカについて、「ポジティブなリーダーシップ」ならばいいが、そうでない場合は世界を悪い方向へ導くと警告した。

かつてアイゼンハワーが「軍産複合体」の危険性を指摘した頃より、その影響力が大きくなっているとし、いまや金融業界も人や政治のコントロールを超えてしまっていると指摘した。「オバマは何もしてこなかったし、これからやってもすでに遅い」とオバマ政権に対して批判的な見方を展開した。


日米関係については、「世界に類を見ない異例な同盟」だと指摘。「鳩山政権の行き詰まりを見ればそのことはよくわかる。オバマは日本のことなど関心がない」と述べ、これほどまでに日本にひどい扱いをしたことはなかったのではないかと述べた。


司会 日本記者クラブ企画委員 濱本良一(読売新聞)

通訳 長井鞠子(サイマル・インターナショナル)


カレル・ヴァン・ウォルフレンのホームページ

http://www.wolferen.jp/index.php?t=1&h=9


会見リポート

「米国」の幻想から目覚めよ

天日 隆彦 (読売新聞論説委員)

20年前に「日本/権力構造の謎」でセンセーションを巻き起こしたオランダ人ジャーナリスト、カレル・ヴァン・ウォルフレン氏は、近年の米国に厳しい目を向けている。

最新刊の『アメリカとともに沈みゆく自由世界』(徳間書店)は、悲観論に満ちた米国批判の書だ。

「今日は楽しくない話になるが……」。こう切り出した氏は「かつての米国は、自由世界の秩序を守る存在だったが、今では混乱を引き起こす勢力になっている」と断言した。

「米国の金融産業は、軍産複合体と同様、もはや政治のコントロールが及んでいない」とも指摘した。

オバマ大統領も、結局大胆な変革に取り組めなかったと見る。

「私は欧州の立場で論じているのではない。高い識見を持つ米国人に依拠しているのだ」とも強調した。James Carroll, Andrew Bacevich,James Galbraith,Chris Hedgesと、リベラル派の論客たちの名を列挙した。

氏の批判は、鳩山内閣に冷淡だった米国の対日姿勢や、米国に「従順な」日本外交にも向けられた。

司会者やフロアからは「米国が冷淡だったのは、普天間問題がこじれたからではないか」「尖閣諸島の事件もあり、日本では日米同盟の重要性がより一層認識されつつある」といった疑問も提示された。

これに対して「オバマ大統領は一握りの日本専門家に任せきりで、普天間に関心はない」「日本が米国に屈するなら、中国は日本をまともな相手と考えないだろう」と応じた。

一方で、強大化する中国に対しては、日中間に安定的な相互関係を築くことを提唱するにとどまった。

中国や緊迫度を増す東アジアの国際情勢に対しあまりに楽観的と感じたのは私だけだろうか。かつて日本のシステムを論じた時のような鋭い切り口から、いずれ中国についても正鵠を得た分析を示して欲しいという思いが残った。


ゲスト / Guest

  • カレル・ヴァン・ウォルフレン / Karel van Wolferen

    米国 / US

    ジャーナリスト / journalist

研究テーマ:日米中

研究会回数:15

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