2010年11月08日 14:30 〜 16:00 10階ホール
ジャック・デ・マイオ・ICRC南アジア事業局長

会見メモ

赤十字国際委員会(ICRC)でアフガニスタンやパキスタンを担当するドマイオ南アジア事業局長が、現場での活動や赤十字の役割について語り、質問に答えた。


ドマイオ氏は、アフガニスタンとパキスタンがICRCの最も重要で、最も規模が大きいオペレーションと説明。アフガニスタンで政府や米軍、NATO軍が入れない地域にICRCが入り人道支援を続けている実情を報告した。質疑応答では、イスラム世界におけるICRCの仕事について、何十年も活動しているのでサービスのメリットを受けた人も多く受け入れられていると説明した。赤十字の十字がキリスト教のシンボルと受け止められ、西洋の組織とみられる点については、「宗教組織ではなく人道組織であると説明している。現地の赤新月社との連携・協力も進めている」と述べた。赤十字が武装の護衛をつけず活動している点について、「紛争当事者である軍事組織がかかわることなく、リスクが伴うことを受け入れてわれわれの仕事をしている」と述べた。現地の人が医療を求めて外国軍の病院に行けば、それだけで不利益が生じる現状を説明し、中立のICRCが医療だけを提供する重要性を強調した。また、アフガンのPRTに関する質問には「PRTは人道活動ではない。軍の政治的な意図をもった戦略であり、人々の支持を得ようとする活動だ」と指摘した。アフガンで拘束された人質の解放に関して「中立的な立場で当事者間の仲介にあたることがある。身代金などの交渉にはかかわらない」と説明、現在は30件の人質事件をフォローしていると明かした。日本について「世界各地で、日本は中立的で信頼されている。人道法が守られるよう、日本政府と国民はもっと主張してほしい」と期待を示した。

司会 日本記者クラブ企画委員 石郷岡建

通訳 西村好美(サイマル・インターナショナル)


赤十字国際委員会駐日事務所のホームページ

http://www.jrc.or.jp/ICRC/


会見リポート

人道援助は日本のソフトパワー

渡辺 覚 (読売新聞調査研究本部管理部長兼主任研究員)

「2002年、アフガニスタンは平和と安定の時代を迎え、開発と発展の段階を迎えたと言われた。だが、我々は同意しなかった。30年以上続くアフガニスタンの戦争状態は、今も決して終わっていない」

あの年、自分はアフガンの何を、どう書いたか? 他紙は? 欧米の報道はどうだった? タリバン政権が崩壊し、暫定行政機構が始動した時期である。筆者自身も、当時の「楽観」を反省せねばならぬ身だ。

赤十字国際委員会(ICRC)本部でアフガン周辺諸国のプロジェクトを統括するデ・マイオ氏の分析は、出席者にそんな思いを抱かせながら、なお慎重で抑制的だった。

不安定さを増すアフガン、戦闘に洪水が加わり、情勢が複雑化しているパキスタン、内戦の傷にあえぐスリランカ……。「楽観」が「無関心」へ転じかねない状況に、デ・マイオ氏は言葉を強めて言った。

「混乱が続くこれらの国々では、ICRCしか入れない地域も多い。スタッフは、武器も護衛もなしに活動に当たっている。我々の身を守るものは、赤十字の旗のみだ」

ジュネーブのICRC本部は、国連欧州本部や各国大使館と向き合い、これらを見下ろす高台にある。話題の書名ではないが、組織は「超然」とした中立性を最重視する。

それゆえ通常の取材では、特定国の対外政策に関するコメントは敬遠されがちだ。だが本会見では、日本の役割に対する明確な言及があった。中国やロシアを相手に、外交の自信が大きく揺らぐ現状にあって、例外的な発言を「リップサービス」と切り捨てる余裕はなかろう。

「ICRC最大の支援国の一つとして、日本は自らの立場を世界に主張してほしい。人道援助に貢献する姿勢は、それだけで日本外交を強化するソフトパワーとなるはずだ」

ゲスト / Guest

  • ジャック・デ・マイオ / Jacques de Maio

    ICRC南アジア事業局長 / Head of Operations for South Asia, International Committee of the Red Cross

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