2010年11月02日 15:00 〜 16:30 宴会場(9階)
柳澤協二・元内閣官房副長官補(安全保障担当)

会見メモ

2004 年から2009年まで内閣官房副長官補として安全保障・危機管理を担当した柳澤協二氏が、「著者と語る」シリーズで、近著「抑止力を問う」(かもがわ出版)について語り、普天間問題、日米同盟や日中関係について質問に答えた。

柳澤氏は「抑止力」や「脅威」ということばについて、「冷戦時代の用語をそのまま語っていいのか。沖縄の人々にはもはや通用しない」と発想を変える必要性を説いた。「いま何を抑止するのか」と問題提起し、北朝鮮に対しては「抑止の体制はひととおりできている」、国際テロに対しては「軍事力では抑止できない」と説明した。その上で、中国については、同じ方向に向かう列車に乗り、満員で肩がぶつかったり足を踏んだりということはあっても、経済の相互依存が深まり、一本橋の上で正面からぶつかる関係ではない、とたとえた。米中の軍事バランスを「第一列島線の内側の東シナ海ではバランスしていて、米中にとっても居心地のいい状態ではないか。日本は中国の(西太平洋への)アクセスを拒否する能力を持つことが大事だ」とミサイル防衛、対潜トレイス能力、FX選定などをあげた。普天間基地移転問題に関連して、「海兵隊が沖縄にいなければならない必然性はない」「台湾有事で海兵隊を使うということは米中全面戦争を意味するが、日本には覚悟があるのか」「普天間の(県外・国外)移転先には政治が選択できる幅がある。政治が決意すれば、安全保障上、成り立たないということはない」とことばを選びながら、海兵隊の存在を考え直す立場を示した。

司会 日本記者クラブ企画委員 萬直樹(テレビ東京)


会見リポート

“抑止力”を問う

薬師寺克行 (朝日新聞編集委員)

柳澤氏の朝日新聞への寄稿(今年1月)は大いに話題になった。つい先日まで官房副長官 補という首相官邸の中枢ポストにいた人物が、「海兵隊が沖縄に駐留することで得られる抑止力とは何か。それを明らかにしなければ、普天間問題は永久に迷走 する」と、米軍普天間飛行場の沖縄県内移設に疑問を呈したのだ。この問題提起が鳩山内閣の迷走に拍車をかけたことは間違いない。

日本記者 クラブでの講演でも、現役時代には考えられないような率直な発言が続いた。「鳩山内閣を見て、抑止力がわかっていないと思った」「そもそも、何を抑止する のか。北朝鮮か中国なのか」「仮に中国であるなら、中国の何を抑止したいのか」「日米同盟が必要だというが、日本はどこまで何をするのか。その定義なくし て、海兵隊の役割も定義できない」など次々と疑問を提起した。

さらにその矛先は政治家にも向けられた。「海兵隊が台湾有事に対する抑止力になるというが、それはいざという時に海兵隊を使うということだ。米国との事前協議で出動を認めなければならない。そのことの意味をわかっているのか」と、政治家の薄っぺらな議論を批判する。

現役時代から、安保政策の常識をひっくり返すような問題意識を持っている人だったが、立場上、おおっぴらに発言することはなかった。政策に反映させることはもとより不可能だっただろう。

講 演の冒頭、「これまでは組織の枠にとらわれて、安保政策について根本的な疑問を出して、ゆっくり考えることができなかった」と防衛省や副長官補に勤めてい た時代を振り返った。今後は、安保政策について大胆な問題提起をし続けていきたいそうだ。『抑止力を問う』(かもがわ出版)はその第一弾の作品で、6人の 専門家を相手に、これまで吐き出すことができなかった問題意識をぶつけている。


ゲスト / Guest

  • 柳澤協二 / Kyoji YANAGISAWA

    日本 / Japan

    元内閣官房副長官補(安全保障担当) / Former Assistant Deputy Chief Cabinet Secretary

研究テーマ:著者と語る

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