2010年10月18日 13:00 〜 14:30
島内憲・前駐ブラジル大使「大使に聞く」

会見メモ

経済成長が著しい資源大国として関心が高まっているブラジルの実情について、4年間在勤し、9月、帰国した島内憲(しまのうち・­けん)前大使が研究会「大使に聞くブラジル」で語り、質問に答えた。

島内さんは、「4年間でブラジルは大きく変貌し、大使としてエキサイティングだった」と前置きし、ブラジルの特徴として①安定感­がある大国②世界一の親日国③広く深い国でビジネス機会が多い④日本にとって最重点国のひとつ――をあげた。ブラジル経済につい­て、2010年の成長率が7.5%の高度成長を見込み、外貨準備高が4年前の800億ドルから2800億ドルに増え、石油の自給­も達成し、しかも平均年齢29歳と若く、60の民族から成る多民族国家だ、と説明。「第二のアメリカ合衆国となるポテンシャルを­持つ世界で唯一の国だ」と表現した。日本との関係では、①日系人が150万人いる世界最大の日系社会②製鉄、アルミ、農業開発な­ど日本が協力した大型プロジェクトの成功③JICAの技術協力研修生OBが8000人もいるODAの実績――を指摘し、日本の比­較優位を強調した。サンパウロ・リオデジャネイロ新幹線計画を日本が落札すれば、日伯協力史上最大のプロジェクトとなることも訴­えた。ブラジル関係の書籍が日本では少なく、ブラジルの情報が日本では共有されていないと懸念も示した。
司会 日本記者クラブ企画委員 小此木 潔(朝日新聞)


在ブラジル日本大使館のホームページ
http://www.br.emb-japan.go.jp/nihongo/index.html
駐日ブラジル大使館のホームページ
http://www.brasemb.or.jp/



会見リポート

世界一の親日国を大切に

岩城 聡 (日本経済新聞前サンパウロ支局長)

冒頭、2006年からの4年間の在任期間を「非常にエキサイティングでやりがいがあった」と振り返った。その通りだろう。07年秋、そろそろブラジルが目を覚まし、巨体を起こし始めたころに、後ろ髪を引かれる思いでかの国を離れた身からすると、ただ一言「うらやましい」のだ。

今や「永遠の未来の大国」という揶揄の言葉はどこへやら。資源と内需の両輪をフル回転し、あれよあれよと国際舞台に躍り出ていった時期と、大使としての充実の赴任時期はぴたりと重なる。05年ごろはまだ、ブラジル人自身が「BRICsって何?」と怪訝そうにこちらに聞いてきたほど。ブラジルもどこか自信がなさげだった。

しかし、昨年10月のリオデジャネイロ五輪の開催決定で「普通の国」への切符と誇りを手にした。ルラ大統領という希代のカリスマも、今や新興国の顔だ。首都ブラジリアでその変貌ぶりだけでなく、各国の外交距離の詰め方を見るにつけ、ブラジルの〝体感温度〟はずいぶん高く感じたに違いない。

なのに、日本のブラジル熱はまだまだ微熱程度だ。小泉首相(当時)が訪伯し、日本人移民の苦労に想いを馳せて涙したのは04年。それ以来、日本からの首脳外交は途切れている。「日本はブラジルを最重要国の一つに位置付け、二国関係を抜本的に強化すべきだ」。世界一の親日国を、なぜ、もっと大切に扱わないのかという叱咤だろう。

研究会終了後、あらためて名刺をいただくと「この名刺はほぼ賞味期限切れ。明日で退職です」と寂しそうにおっしゃいましたよね。でも、まだブラジルへのサウダージ(郷愁)に浸るのは早いですよ。「あの国を見て後悔することはない」との言葉に賛同。どうか、今後は機会を捉えて、「24時間かけてでも、ブラジルに一度は行ってみなさい」との地道な辻説法をお願いします。

ゲスト / Guest

  • 島内憲 / Ken SHIMANOUCHI

    日本 / Japan

    前駐ブラジル大使 / Former Ambassador to Brazil

研究テーマ:大使に聞く

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