2010年09月27日 00:00 〜 00:00
高行健・作家・ノーベル文学賞受賞者

会見メモ

中国語で創作する作家として初めてノーベル文学賞を受賞した高行健さんが記者会見し、質問に答えた。国際ペン東京大会2010に­招かれ、初来日した。

高行健さんは政治と文学の関係について、「文学は政治と切り離されたものでなければならない。政治の介入や市場の制約の中で、文­学は政治やイデオロギーを超越すべきだ」と述べた。現代が抱えるさまざまな問題に「解決策がみつからないと認めざるを得ない。思­考の危機の時代といえる」「覚めた、覚醒した認識に意義がある。認識する努力を怠らない。それしか方法がない」と語った。
質疑応答では、天安門事件▽日本の印象▽南京大虐殺▽川端康成、大江健三郎、村上春樹ら日本作家の評価▽中国の発展とナショナリ­ズム▽魯迅▽文学は世界を変えるか▽作品の中国国内での出版――などさまざまな質問に丁寧に答えた。
高さんは1940年江西省生まれ。パリ滞在中に起きた天安門事件以後、帰国していない。フランス国籍を取得。作品に「霊山」「あ­る男の聖書」など。

司会 日本記者クラブ企画委員 坂東賢治(毎日新聞)
通訳 青山久子、渋谷千春


日本ペンクラブ・ホームページにある国際ペン東京大会のサイト
http://www.japanpen.or.jp/convention2010/

会見リポート

文学は政治を超越すべき

隅 俊之 (毎日新聞外信部)

「政治的な干渉があろうとも、作品が検閲される状況にあっても、作家として独自の考え方を持ち続けなければならない」。東京では3度目の開催となった国際ペン東京大会に招かれ、来日した高氏のスピーチは冒頭から熱が入っていた。

文化大革命を生き抜き、ヨーロッパ滞在中に天安門事件が起きたのを機に政治亡命。事件を背景にした戯曲「逃亡」は当局の逆鱗に触れ、高氏の作品は今も中国では発行禁止だ。中国の近代文学が常に政治に翻弄されてきたという悲憤が、言葉の節々から感じられた。

地球温暖化などの環境問題、とどまることを知らぬ開発競争、地球規模で広がる金融危機。人類が苦難に直面する時代に文学が果たしうる役割は何か。今回の国際ペン東京大会のテーマにも重なる問いに対し、その答えは期待を十分に裏切るほど悲愴感に満ちていた。「文学は世界を変えることはできない。それは妄想だ」。そして言葉をつないだ。「問題の解決法を私達は実は見出せないでいるということを認める。その方が、世界をより良くできると謳うよりも意義がある」

それなら、私達はいったい何のために文学に触れるのか。そんな空虚さにも似た疑念が思わず沸き起こったが、高氏が繰り返し語った「危機を危機として認識する努力の必要性」という訴えに納得がいった。確かに、私達は目の前で起きている出来事を正確にとらえられているとは言い切れない。

「文学における認識とは、政治やイデオロギーといった枠組みの制約を受けるものであってはならない」との言葉は、亡命前から母国で文学活動への干渉を受けてきた高氏ならではの重みがある。と同時に、「民主的」だというこの国に暮らす自分にとっても、あらためて心に刻むものがあった。

ゲスト / Guest

  • 高行健 / Gao Xingjian

    作家・ノーベル文学賞受賞者 / a Nobel Prize winning writer in Literature

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