2010年07月09日 00:00 〜 00:00
梅津時比古・毎日新聞社学芸部専門編集委員

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会見リポート

独自の立ち位置 第3の耳で

森脇 逸男 (読売新聞出身)

ふだん男性が多く灰色一色の10階ホールが、この日は若い女性が過半数、カラフルで、華やかな雰囲気だ。音楽記者初の記者クラブ賞受賞者である講師にふさわしく、講演では七つの曲のCDが流された。

最初は、シューベルトの「魔王」だ。中学校の鑑賞曲でもあり、広く知られている名曲だが、屈指の難曲なのだという。歌手は話し手、父、子、魔王の四つの声を歌い分けなければならず、伴奏者は、休みなく続く素早い連打で、変わりゆく背景や風、馬の疾走を表現しなければならない。また、「音楽は世界の共通語」と言われるが、実はそうではない。ドイツ人は曲の前半、日本人は終わりを怖いと感じる。さらに、もとになったデンマークの伝承は「妖精の娘」で、「魔王」はへルダーが妖精をハンノキの王と誤訳したものをもとにゲーテが詩にしたものであることなど、曲の成立にまでさかのぼっての分析、説明は、説得的で、快い。梅津さんの音楽評が読者に支持される理由の一端がうかがえた。

この後,バッハの「マタイ受難曲」のペテロの裏切りと慟哭が、シューベルトの冬の旅の「風見鶏」では女の尻軽の糾弾となっていること、ベートーヴェンを尊敬していたショスタコーヴィチは「月光の曲」のテーマを「ヴィオラ・ソナタ」に使っており、それを聴くと「月光の曲」を聴くときにショスタコーヴィチの苦悩が反映されてしまうといった解説があり、音楽は、その背後にあるものを知ると、曲が膨らみ、肉付けされること、音楽を聴く耳は時代や文化に影響されるが、それを超えた自分の立ち位置を持ち、新しい感性で音楽をとらえる第3の耳を持ちたいことが強調された。

音楽のおもしろさ、楽しさを教えられ、改めて音楽に浸りたい気持ちにさせられた1時間半であった。

ゲスト / Guest

  • 梅津時比古 / Tokihiko UMEDU

    日本 / Japan

    毎日新聞社学芸部専門編集委員 / Culture department specialty edit committee,Mainichi Newspapers

研究テーマ:2010年度日本記者クラブ賞受賞記念講演会

研究会回数:0

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