2010年06月25日 00:00 〜 00:00
小林秀明・前駐タイ大使・迎賓館館長

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会見リポート

赤シャツのタクシン派

春日 孝之 (毎日新聞外信部編集委員)

タイには多くの日本企業が進出し、首都バンコクの在留邦人は3万人を超える。首都としては世界最大だ。タイは日本人の人気の観光地でもあり、小林さんは「その政情不安は他人事ではない」と力説する。

だが、日本では必ずしもタイの政治について関心が高いとは言えない。06年のクーデターに伴うタクシン政権崩壊など、激動期に大使として駐在(05年11月~08年9月)した小林さんは、政界の主要プレーヤーたちと膝詰めで話し合った経験などを回顧し、著書『クーデターとタイ政治』をまとめた。

出版は今年4月。タクシン氏の支持派が首都中心部を占拠し、当局との間で流血の事態を招いた騒乱(3~5月)の最中だった。タクシン氏は首相時代、タイの政権から長く見捨てられてきた農民層に対し、農村振興策などを通してその支持を獲得した人物だ。膨大な資産を駆使して失脚後もその人気は衰えない。

小林さんは本書でタクシン氏をキープレーヤーと位置づけ、農民層と都市中間層に二極化したタイの政治・社会構造の変化を活写する。講演では今後のタイについて「農民が経済発展の恵みから遠ざかっている限りは安定しない」と分析した。

タイではかつて、多くの国民が王室のシンボルカラーである黄色のシャツを着て、国王への敬慕の念を示した。今は、タクシン氏支持派がこれに対抗する形で赤シャツを着用している。

小林さんは、大使という職務上、「十分に書けなかったこと」を列挙した。その一つの「王室」はメディアでもタブーだ。先の騒乱を巡っては、国王がかつての政治混乱時のように仲裁役を果たすことはなく、高齢になった国王の存在感の低下を印象づけた。小林さんが言う「書けなかったこと」にも、紛れもなくタイ政治の本質と危機が潜んでい


ゲスト / Guest

  • 小林秀明 / Hideaki KOBAYASHI

    日本 / Japan

    前駐タイ大使・迎賓館館長 / Former Ambassador of Japan to the Kingdom of Thailand

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