2010年06月15日 00:00 〜 00:00
大西雅之・「あかん遊久の里 鶴雅」代表取締役社長「地域深考」4

会見メモ

観光専門紙で「人気温泉旅館」サービス部門1位になった北海道・阿寒湖の旅館「鶴雅」の大西雅之社長がシリーズ企画「地域深考」④で観光政策や北海道の再生について語った­。

「鶴雅グループ」のホームページ
http://www.tsurugagroup.com/

「政治が変わらなければ地域は死んでしまう」
大西さんは、阿寒湖温泉の観光客宿泊数が年間62万人で平成10年(104万人)に比べて4割減ったと説明。その要因として、羽田・釧路間の1マイルあたり航空運賃が羽田­・札幌間の格安運賃の3倍もする航空規制緩和などをあげた。
中国で2億人が見たという映画「非誠勿擾」のロケ地になったため、中国人客が増えたことをあげ、外国人観光客の誘致に取り組むと強調。10年後、北海道の外国人観光客を3­00万人に増やす計画を紹介した。
阿寒湖温泉について①アイヌシアターの建設などアイヌ文化の発信②マリモの再生やエコリゾート③ネイチャーガイドの育成――のプロジェクトを説明した。
航空行政、高速道路、北海道新幹線から外国人観光客やアイヌ、マリモまで幅広いテーマで地域の再生を話した。
司会:篠原昇司・日本記者クラブ企画委員(日本経済新聞)


会見リポート

“郷土力”磨いて発信を

滝沢 英人 (日本経済新聞消費産業部次長)

北海道東部(道東)・釧路市の阿寒湖に拠点を置く阿寒グランドホテル(ホテル名は「あかん遊久の里 鶴雅」)の大西さんは、1989年に30代半ばで社長を引き継いだ。道内に複数持つ自社ホテルの経営のほか、阿寒湖温泉活性化のリーダーとして活躍している。年間50回もの講演をこなし、北海道の観光業界の「顔」ともいえる存在だ。

まず強調したのは、「(航空運賃が認可制から事前届出制に変更になった)2000年の航空法改正で、(首都圏から道東への主要路線である)羽田─釧路便の料金が割高になった」という点だ。この結果、「道東の観光客はピークに比べて3~4割減った」という。経営再建中の日本航空が不採算路線からの撤退を進めていることにも触れ、「不採算だから切るという視点だけでは地域は完全に死んでしまう」と危機感を示した。

観光地までの「足」の問題は、国や自治体、鉄道会社など公共交通機関の政策に依るところが大きいため、「観光立国」をめざす国に対して、地域の実情への理解を求めた格好だ。

もっとも、大西さん自身は手をこまぬいているわけではない。観光地側でなすべきことは「地域の宝」を発掘、再認識し、それを情報発信していくことだ。担い手の育成も必要だろう。それを大西さんは総括的に「郷土力」と呼んでいる。阿寒湖温泉にとって、それは「アイヌ」と「マリモ」だ。講演では、アイヌ文化の情報発信、マリモの生育地の再生プロジェクトなど、ここ数年の取り組みについて、しっかりとPRしていた。

人口減少、高齢化などで疲弊する地域が少なくない。人口を増やしたり、企業を誘致して雇用を拡大することは容易ではない。そこで注目されているのが観光を軸にした交流人口の拡大だ。観光客が増えれば、ホテルに泊まったり、土産を買ったりと、その地域への経済効果が大きい。「郷土力を磨く」という視点は他の観光地にも参考になる話だった。


ゲスト / Guest

  • 大西雅之 / Masayuki Ohnishi

    日本 / Japan

    「あかん遊久の里 鶴雅」代表取締役社長 / President, Tsuruga Group

研究テーマ:地域深考

研究会回数:4

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