2010年05月31日 00:00 〜 00:00
白川方明・日本銀行総裁

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会見リポート

新産業育成 “最後の貸し手”として

戸谷 正一 (東京新聞経済部長)

白川総裁の論旨は明快である。日本経済はようやく回復軌道に乗った。だが、国民の多くは気分が晴れない。理由は物価下落など潜在成長力の低下に直面しているからだ。それを克服するためには新産業の育成、イノベーションの促進が不可欠。ならば、日銀としてできることはないか─。そこで知恵を絞ったのが「成長基盤強化の新貸出制度」である。平たく言えば、日銀が民間金融機関に対し年0・1%の低利の資金を供給し、環境・エネルギーといった成長期待の高い企業に融資を促す、という仕組みだ。

この貸出制度、あまり評判は芳しくない。まず、物価や通貨の「番人」である日銀の業務とはいえず、本来なら政府系金融機関の行う仕事である。成長産業の見極めも難しく、資金配分の歪みも招きかねない、との批判もある。さらには、追加金融緩和の圧力をかわすためではないか、などの憶測も呼んだ。講演後は予想通りの質問が集中した。

ただ、ここで結論を出すのはまだ早い。景気は回復基調にあるとはいえ、人口減少は進み、生産性の伸びは著しく低下。デフレ解消のめどは立たず、欧州の金融危機が日本経済を直撃している。さらに、混迷する政治情勢、緊迫化する朝鮮半島。日本経済の閉塞感は深まるばかりだ。

成長産業の育成を提案するリポートは腐るほどある。しかし、複雑に絡む関係者の利害、政府の政策努力不足、そしてリスクを避ける金融機関の消極的な融資姿勢が、成長産業の育成を阻んだのではないか。日銀とすればそれこそ“最後の貸し手”となる思いで、自問自答を繰り返しながらの結論だったに違いない。新貸出制度の詳細は6月中に決まるという。日本経済活性化の一助になるのか、見守っていきたい。


ゲスト / Guest

  • 白川方明 / Masaaki SHIRAKAWA

    日本 / Japan

    日本銀行総裁 / Governor,the Bank of Japan

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