会見リポート
2010年04月28日
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ヘルマン・ファンロンパウ・EU議長
会見メモ
最初の欧州理事会常任議長に就任したヘルマン・ヴァン=ロンプイ氏が初来日し、EU大統領として最初の記者会見を行った。
「私たち欧州とあなたがた日本は同じボートに乗っている。双方とも、米国との関係を再定義するプロセスにあるからだ。このことは、2009年の衆院選結果を説明する要素のひとつになると思われる」
ヴァン=ロンプイ議長(カタカナ表記はEU駐日代表部による)は冷戦後の世界が大きく変化し、欧州と日本がともに対米関係を見直しているとの認識を示した。常任議長職の新設などEUの改革と重ね合わせるように日本の政権交代にも関心を示した。「これまで以上に政治を日本のシステムに持ち込もうとする努力」と評し、①官僚のパワーを抑える②日米関係を再定義する③東アジア共同体を呼び掛ける――の3点をあげた。
EUと日本の関係強化を進める分野として①貿易②外交③ネットワークのセキュリティ④気候変動――の4つをあげ、考え方を説明した。
東アジア共同体に関する質問には「すべての新しい構想は夢から始まる。すべての夢は一歩ずつ実現する」と答え、欧州統合の理念と経験を語った。
司会:宇治敏彦・日本記者クラブ副理事長(中日新聞)
通訳:長井鞠子、宇尾真理子
欧州連合(EU)駐日代表部のホームページ
http://www.deljpn.ec.europa.eu/
動画は、左チャンネルから日本語、右チャンネルから英語が流れます。
English : Choose a right channel
会見リポート
控えめに少しずつ
篠田 航一 (毎日新聞外信部)
中国や韓国の人々と同じ通貨を使い、国境を自由に行き来する。安全保障も経済も、東アジアという大きな枠組みで考え、負担を分かち合い、アジア人大統領が束ねる。
まるで夢物語だ。
だが60年以上前、戦後の欧州復興を目指した人たちも、きっと同じように思っていたのではないか。鳩山由紀夫首相の提唱する「東アジア共同体」について大統領は「少なくとも不可能ではない」と断言した。「当時は誰も欧州統合を想像できなかった。今、東アジア共同体を誰も想像できないのと一緒だ」という。
確かに欧州も、最初からいきなり巨大政治機構を目指したわけではない。まずは積年の「宿敵」仏独が、石炭・鉄鋼を共同管理するという現実的課題から始めた。こうした積み重ねが、今のEUにつながる。大統領は言う。「夢を持つこと。でもまずは小さなステップから」。
夢を語る大統領は、会見でも東アジア諸国に「歴史的な対立を乗り越えて」と寛容を説く。とはいえ自身の「足元」になると、例えばイスラム教徒が多いトルコのEU加盟については明確な反対論者。ベルギーの国会議員だった04年には「トルコは欧州の一部ではない。加盟すれば、キリスト教を普遍的価値観とする欧州の活力が弱まる」と発言している。会見では明言を避け、巨大欧州の利害を調整する立場からか、多くのテーマについて控えめに「ステップ・バイ・ステップ」を強調した。
松尾芭蕉を好み、4月に句集まで出版した大統領。オランダ語の自作の俳句の中に、次の一句がある。
雪の羽 枝木に宿る 一重ずつ
なるほど。やはり「少しずつ」がお好きらしい。こうして着実にEUの歩みを進めていくのだろう。句風を変えずに。
ゲスト / Guest
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ヘルマン・ファンロンパウ / Herman Van Rompuy
EU / European Council
議長 / President